真価が問われるアベノミクスの火種

御三家がアベノミクスの足を引っ張る事例はこれにとどまらない。

安倍政権が2014年4月に制定した防衛装備移転三原則に沿った初の大型商談として総額約500億豪ドル(当時の換算で約4兆円)のオーストラリアの次期潜水艦受注で、三菱重工業などが提案した最新鋭潜水艦「そうりゅう型」は、5月にフランスの政府系企業に競り負け、一敗地にまみれた。安倍政権は国内防衛産業の国際競争力の向上やアジア太平洋地域での豪政府との安全保障面での関係強化に向けて、並々ならぬ意欲を示していただけに、「選ばれず、大変残念」(中谷元防衛相)とショックを隠さなかった。

御三家で残る1社、総合商社の雄、三菱商事は世界市場を襲った資源デフレに見舞われ、16年3月期に同社始まって以来の最終赤字に転落した。首相は参院選の最中、アベノミクスによる企業業績改善による税収増を「アベノミクスの果実」と再三訴えてきた。それだけに、三菱商事の赤字転落はその期待を裏切ったも同然だ。

三菱系で最悪の事例は燃費データ不正が発覚した三菱自動車で、日産自動車が電撃的に三菱自に資本参加し、救済に乗り出さなかったなら、またも三菱グループは支援を迫られたはずだった。救済に手間取れば、対象車種の生産停止に追い込まれた水島製作所(岡山県倉敷市)の雇用問題、下請企業を抱えた地元経済への影響は甚大で、アベノミクスが進める地方創生、雇用創出に大きなダメージとなったに違いない。

成蹊学園は旧三菱財閥が設立し、現在も歴代理事長は御三家トップ経験者が就き、三菱グループは首相にとって強力な後援会だ。それにとどまらず、ビジネスの世界で官との関係は強固であり、三菱グループがアベノミクスに水を差す姿は、首相自ら「道半ば」と認め、いままさに真価が問われているアベノミクスを揺るがす火種にもなりかねない。

(宇佐見利明=撮影)
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