大統領選挙もビジネスのうち

トランプ氏が今のようなスタイルに行き着く「転機」の一つに、2004年から11年間司会者を務めた「アプレンティス」というテレビ番組がある。日本で2001年から日本テレビで放送されていた「マネーの虎」のような趣の番組で、実業家らに事業をやらせて、その結果を評価するものだ。トランプ氏は、脱落者に最後に言い渡す「You are fired!(お前がクビだ!)」という決めゼリフで名物司会者になった。この言葉を言う時も、細かい理屈は説明せず、「顔が嫌いだからダメだ」「デブはダイエットしてから来い」など、過激でシンプルなもの言いをして、視聴者にウケていた。普段の生活では言えないセリフを、トランプ氏がテレビで言ってくれるので、視聴者は溜飲を下げていたのだ。トランプ氏は、テレビではどんなもの言いをすればウケるか、ここで感覚をつかんだと思われる。

拍車をかけたのが2007年のプロレス団体WWEへの参戦だろう。この年トランプ氏は、代理人のレスラーを立ててWWFオーナーとのマッチに参加した。プロレスは日本では「格闘技」として受け入れられているが、アメリカでは全く異なり、言ってみれば「お笑いショー」だ。WWFには熱狂的なファンが多いが、その中心となるのは、白人で学歴や所得が低い層。つまりまさに今の共和党支持者、特に、大統領選挙でトランプ氏を支持している層そのものだ。こうした層が、どうすれば熱狂するか、この興行を経験することでつかんだのではないだろうか。

トランプ氏の支持者層は、年齢層の高い白人が中心だ。1980~90年代、頑張って働いてきたのにもかかわらず、2000年代に入ると貧富の差が開き、生活は豊かにならず、職を失う人も多かった。「あれほど頑張ったのに、いいことがない」と不満を抱える層だ。この層が、過去の古き良き時代へのノスタルジーを、トランプ氏に投影している。しかもトランプ氏は、2回も破産を経験しているのに、そのたびに這い上がり、成功している。映画「ロッキー」のように、何度負けても這い上がるヒーローが、アメリカ人は大好きだ。

ただ、本人は本気で政治家になりたいと思って大統領選挙に出ているわけではないだろう。これだけ世界で名前が売れれば、今後のビジネスには大きなプラスだ。そこが目的なのではないか。既にその効果は出ているようで、マンハッタンのトランプタワーは、かつては半分近く空室だったのが、大統領選挙に出て知名度が上がり、すべて埋まったと聞く。