「良きアメリカ」を取り戻すヒーロー

「株式会社アメリカ」の中にありながらも、企業献金を受けず、自己資金で選挙戦を戦い、人気を勝ち取っているトランプに、怖いものはない。大企業から見ると、何を言い出すかわからず、金でコントロールできない恐ろしい存在だろう。

今の多くのアメリカ人は、どれだけ頑張っても、マイホームを建てて家族を持つという、過去に当たり前だったものすら得ることができない。トランプを支持しているのは、こうした「良きアメリカ」を知りながら、今の生活に不満を抱える年配の人たちだ。

アメリカでは、お金持ちはヒーローだ。日本人は、お金持ちがそれをひけらかすような行動をすると、「品がない」とさげすんだり、ねたんだりということがあるが、アメリカ人は素直に「やるなあ」と称賛する。トランプ氏は、努力してチャンスをつかんで成功し、財を成すという、昔の「アメリカンドリーム」の象徴でもあり、ノスタルジーをかきたてられる存在。しかも、トランプ氏は金持ちではあるが、今の政治を動かしている「強欲な1%」とは違い、アメリカンドリームの体現者であり、政治を「強欲な1%」から取り戻そうとしているヒーローなのだ。

サンダース氏の主張も、根本はトランプ氏と同じだ。「アメリカはこんなはずではなかった」という強い思いが根底にある。サンダース氏のメッセージは、「兵士ではなく、学生を増やそう」というもの。アメリカの若者も、教育費の高騰で苦しんでおり、お金がないために大学に行けなかったり、大学に行ったあとも奨学金返済の負担に苦しむ借金漬けの生活に悩んだりしている。大学の学費で優遇措置があることにひかれて、軍隊に入隊するという若者も多い。教育の無償化をうたうサンダースは、こうした若者層、10代~20代の「ミレニアル世代」に支持されている。

つまり、この「トランプ現象」とは、「1%の超富裕層が支配する株式会社アメリカ」への、強烈なアンチテーゼであり、残された最後の希望なのだ。株式会社化したアメリカの中で追いやられてきた人たちが、これまでの大統領選挙であれば「圏外」であったようなトランプ氏やサンダース氏に政治を託そうとしている。弱体化して超富裕層の手先に成り下がってしまったアメリカ政治を、自分たちの手に取り戻し、よみがえらせたいという、アメリカ国民の悲鳴に近い叫びなのだ。