かつて、事業の立ち上げや売却には多大な労力が必要だった。初期投資額も大きく、投資資金を回収するためには、株式市場に上場する以外に方法はなかった。上場のハードルが下がったとはいえ、上場できる規模になるまで会社を成長させるのは並大抵のことではない。それに何よりも企業の成長には時間がかかる。

だが、ネット・インフラの普及によって、初期投資ゼロでも事業をスタートできるようになり、起業のハードルは大幅に下がった。また、資金の回収についても、最近では上場することなく、大手企業への売却という形でイグジット(出口のこと)できるようになってきた。大きなニュースになっていないのであまり一般には知られていないのだが、実は、ネット系の大企業は年に何社もベンチャー企業の買収を行っている。そのたびごとに、ちょっとした資産家が次々と生まれているのである。

こうしたニューリッチの多くは、都市部に集中している。生活の利便性を第一に考えるので、住まいも都心志向という人が多い。前述の村田氏はビジネスや教育面で良好な環境を得るという目的で、いともたやすく都市国家シンガポールに移住してしまった。彼女のケースは極端かもしれないが、最近のこうしたニューリッチたちは総じてドライで、かつ合理的だ。

ニューリッチはなぜ都心志向か

ドライで合理的なニューリッチが増加しているのは日本だけの傾向ではない。2014年『年収は「住むところ」で決まる』(プレジデント社)という刺激的なタイトルの本が話題になったが、こうした動きは世界共通である。

米国ではイノベーション産業の有無で都市の優劣がハッキリするようになり、成長する都市の高卒者と衰退する都市の大卒者の年収が逆転するという現象が起きている。本書の著者である経済学者モレッティ氏は、イノベーションをもたらすような職種の仕事(たとえば先進的ネット企業のエンジニアなど)が一件あると、その地域のサービス業に五件の雇用が増えると指摘している。つまりイノベーションというものは、人との直接的な交流があってはじめて発展するものであり、人的な集約が欠かせないという主張である。

そうであるならば、人や情報が集中している都市部のほうが、その他の地域よりも相対的に有利なのは明らかだ。こうしたニューリッチ層が都心志向なのは決して偶然ではない。