ただし、今後のEUは、二層構造にならざるをえないでしょう。「EEC」の原加盟国であるベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダという6カ国に代表される「コア国」と、それ以外で機能をわけることになるはずです。「コア国」はいわば「1軍」として関係をより深化させ、経済・外交の協力を強めていくでしょう。一方、東欧やギリシャなどの「2軍」は、決定権は小さくなるものの、オプトアウト(適用除外)の範囲は広がります。そこでも最大の論点は、労働移民の制限です。

現在、トルコがEU加盟を目指しています。もしトルコが加盟することになれば、これまで以上の労働移民が流入するでしょう。その多くはイスラム教徒です。文化的背景の異なる移民をどう受け入れるか。トルコという異分子を入れたくないというのが、EU加盟国の本音です。

イギリスのEU離脱は、FTAに準じた関係さえ結べれば、さほどの脅威ではありません。本当の脅威はスコットランドの独立運動です。

一昨年のイギリスからの独立を問う住民投票では、約10ポイントの差をつけて独立反対派が勝ちました。しかし今回の国民投票では約3分の2が「EU残留」に票を投じています。イギリスは離脱するが、スコットランドは残留する。そうした主張が盛り上がる恐れがあります(※2)

スコットランドには、核弾頭付きミサイルを搭載した原子力潜水艦の母港や、イギリスを「石油輸出国」に変えた北海油田があります。もし独立が現実化すればイギリスの政治・経済は大混乱し、威光は地に落ちます。もちろん世界経済に与える影響も小さくありません。

その場合、スペインのカタルーニャ地方など各地の独立運動を勢いづける恐れがあります。EU離脱のデメリットを見て「Head(知性)」で考えるようになった大衆の「Heart(感情)」が、再び燃え上がる。それこそが本当のリスクなのです。

※1:イギリス連邦(Commonwealth of Nations)は現在53カ国。イギリスの元植民地からなるゆるやかな国家連合で、主な国は、インド、シンガポール、マレーシア、カナダ、南アフリカ、ナイジェリア、ニュージーランドなど。
※2:スコットランド自治政府のスタージョン首相は6月29日、ベルギーのブリュッセルのEU本部を訪ね、欧州議会のシュルツ議長やEUのユンケル委員長と相次いで会談。記者会見では「EUとの関係を守りたいというスコットランドの要望を明確に伝えた」と述べた。

(伊藤達也=構成)
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