議論に必要なのは「共通言語」

グローバルでビジネスをするうえで、ビジネス・エシックスを「共通言語で話す」ことは必須の要件です。「共通言語」は、倫理的な話をする際の前提です。おさえておくべき前提は、大きく3つあると考えています。

1つめは、自分の行動の結果が「害をなす」のか、「利益となる」のかという二項対立で考えていくこと。どれだけ利益を最大化させ、害を最小化できるかが議論の軸となります。

2つめの前提は、この利益と害の影響範囲の問題です。1つの事象は、個人にとっては害があることかもしれませんが、コミュニティ全体にとっては利益を享受できるかもしれません。利益や害が、誰に、どの程度影響を与えるのか。個人だけでなく、集団への影響力も鑑みていく必要があるのです。

そして、3つめの前提は、非常に基本的な倫理原則についてです。たとえば、「真実を話す」「盗みは悪いことだ」といった一般的な倫理的思考を共通に持っていなければ、ビジネス・エシックスを議論の俎上に載せることは難しいでしょう。

ハーバード・ビジネス・スクールでは、西洋の倫理観を根底においているので、ときには日本と異なる価値観に戸惑う学生もいるかもしれません。西洋の倫理観は、個人の状況や個人の地位を強調します。一方で、日本人学生などを見ていると、共同体や関係性を重視する傾向にあるように感じます。とはいえ、国が違っても共通する価値観を持っていたり、出身が同じであっても異なる思考を持っていたり、必ずしも、文化の違いによって倫理観は規定されるものではないと感じています。たとえ異なる価値観を持った人同士であっても、互いに納得できるような倫理観の着地点を探っていくことが重要です。

ビジネス・エシックスのクラスでよく起こる議論は、「会社の責任問題」についてです。コンサルティング会社&金融機関の出身者が多い欧米出身の学生は、株主を重視した論を展開します。しかし、メーカーなどの事業会社出身が多い日本人学生は「いや、株主だけではなく、従業員や社会全体からもアプローチしていくべきだ」と主張することが多い。コンサルティング会社などとは違い、事業会社の場合、多くの利害を持った関係者がいることで、こうした議論が生じるのかもしれません。国籍・文化・キャリアなど、異なるバックグラウンドや価値観を持った人たちが一堂に会することで、ビジネス・エシックスの研究が深まります。

企業の社会的責任への意識が高まっている今こそ、企業利益の追求と倫理的な活動は共存すべきものだと感じています。教え子たちを含め、日本のビジネスパーソンの方にも是非意識してもらいたいです。

(構成=佐藤 智 撮影=工藤睦子)
【関連記事】
もしも、ドラッカーと松下幸之助が三菱自動車に説教したら
トラブル発生! 仕事上の「謝罪」6つのアクション
自動車の運転に学ぶ「ビジネスリスク管理」の基本
山一證券、ソニー、東芝「沈没する会社の共通点」
謝罪会見オンパレード。なぜ火に油を注ぐか