その意味では地元広島での外相会合をリードして粛々とホスト役をこなした岸田文雄外相の功績は大きく、安倍後継レースの有力候補に浮上したと言っていい。

オバマ大統領の広島演説は、感動的だった「核なき世界」のプラハ演説とは比べものにならない。あるフランス人ジャーナリストが「核の問題を自然現象のように語った初めての大統領」と評していたが、それはその通りで、アメリカ国民が容認できるギリギリの表現だったということだろう。原爆投下は宣戦布告なしに戦争を仕掛けてきた日本への制裁であり、むしろ戦争終結を早め、1億総玉砕などという悲惨な戦い方をやめさせたおかげで、多くの日本人の命が救われた。戦後復興にも力を貸した。だから原爆投下は不問に付してくれ、というのが戦後一貫したアメリカの態度だ。今回のオバマ大統領の広島訪問はそれを超えるものではないが、私は大きな意義があると思っている。

政治家にとって重要なのは「将来に影響のある今日的な行動」である。たとえば安倍首相が真珠湾に立って謝罪しても将来的には何の意味もない。「こっちにも謝罪せよ」と中韓から要求されるだけでハレーションが大きすぎる。しかし核の問題はそうではない。公然とあるいは秘密裏に核開発をする国があちこちにできて核不拡散体制が揺らいでいる今日において、「核なき世界を目指そう」というメッセージを広島から発信することには大きな意味があるし、将来にも影響がある。プラハ演説でノーベル平和賞を受賞しながら、オバマ大統領は何もしてこなかった。残された任期で、ロシアのプーチン大統領に核軍縮交渉を持ちかけて命懸けでやるきっかけにでもなれば広島訪問は大きな意義があったことになるし、本当の意味で原爆犠牲者に対する追悼にもなる。「核なき世界」を自分のレガシーにしたいオバマ大統領の単なる寄り道、と言われないためには米ロの持つ1万5000発の核弾頭を90%削減するなど実績で示してもらうしかない。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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