自宅待機の従業員は「笑顔」をどう見たか

一方、5月12日に日産からの出資受け入れを発表した三菱自動車の益子会長は、日産のカルロス・ゴーン社長と並んで満面の笑みを浮かべた。「私たちはトップ3になる実力がある」。ゴーン社長がそう言うと、益子氏が隣で大きく頷く。その様子に私は強い違和感をおぼえた。

益子氏は燃費データの改竄があった「eKワゴン」「デイズ」など軽自動車4車種の開発を重要プロジェクトと位置づけ、「最高の燃費を目指してほしい」「他社に対抗できるか」などと現場を叱咤していた。構図は東芝の不正会計で佐々木則夫元社長らが現場に求めた「チャレンジ」と同じである。

益子氏ら経営トップの圧力により、当初は1リットル当たり26.4キロだった燃費目標が、あわせて5回引き上げられ、最終的に29.2キロに設定された。引き上げには技術的な裏付けがないため、目標達成の圧力は燃費データの測定をとりまとめる性能実験部の社員たちに押しつけられた。

圧力は下達されるたびに倍増し、末端近くになると「何としてでも燃費目標を達成しろ。やり方はおまえが考えろ」という指令が飛んでいた。自分の叱咤がそこまで増幅していたことを益子氏は知らなかったかもしれないが、広義で見れば不正に関わったと見ることもできる。

その益子氏がトップに残り、「資本提携」と銘打って晴れがましい席で満面の笑みを浮かべる(※2)。 「燃費データ改竄」から始まった大型提携を「何とか前向きにしたい」という会社の意図はわからないでもないが、60万人を超える燃費不正対象車のオーナーたちは、益子氏の笑顔についてどう思っただろう。

オーナーだけではない。岡山県倉敷市の水島製作所は4月以降、不正の対象になった軽自動車4車種の生産を停止し、1300人の従業員が自宅待機になっている。影響は取引先にも及んでおり、三菱自動車関連の取引がなくなったことで経営危機に陥った地元の中小企業を救済するため、自治体は支援体制の構築に奔走している。

今まさに生活を脅かされている彼らは、笑顔のゴーン氏と益子氏を祝福する気にはなれなかっただろう。