「兄弟全員が介護をひと晩でも体験すべし」

介護の大変さは実際に行った人でなければわかりません。

精神的、肉体的な苦労に加え、金銭的、時間的負担も大きい。兄弟にそれを訴えても、しっかりと受け止めて、「自分にできることはないか」と何らかのサポートを申し出てくれる人は少ないといいます。

「それでいて自分の親のことでもあり、現在の介護に何かと口出ししてくる人もいます。舛添さんのように著書にする人はさすがにいないですが、やってもいないのにいっぱしのことを言われると、現実の介護で苦労している人には大きな不満になるわけです」

介護の苦労に加えて、それを理解してくれない兄弟に対する憤り。ストレスが増幅され、怒りや恨みにつながるというのです。

「血をわけた兄弟がこんな風になるのはつらいことですよね。そうならないためには……」とFさんが提案するのは「兄弟全員が介護を体験すること」です。

「介護をしている人が、兄弟それぞれの都合を聞いて集まってもらう。そして現在の介護状況を説明し、できれば数日、それが無理ならひと晩でも介護を体験してもらうんです。ケアの基本を伝えたうえで、その日は外出して誰にも頼れないようにする。親御さんが元気で移動に耐えられるのなら、担当する兄弟の家にあずかってもらうのもひとつの方法。親御さんにはストレスになるかもしれませんが、自分の子すべてがケアの労を受け持ってくれることに喜びを感じてくれることもあります」

こうして兄弟全員が介護の大変さを実感することで、介護を受け持たされている人を何らかの形で「サポートしよう」という気持ちが生まれ、「介護に通うのは難しいが、その代わり、経済面の負担をしよう」といった動きにつながることがあるそうです。

「また、私が担当した利用者さんで、こんなケースがありました。兄弟のおひとりが、“介護をひとりに押しつけているようで心苦しい”と負い目を感じていたそうなんです。といって介護体験のない自分が出て行っても、かえって迷惑じゃないか、と思っていた。親御さんのことが心配で訪ねて行っても、気兼ねばかりして辛かったというのです。そんな時、兄弟全員が一度は介護をしておこうという話が出て、参加できた。それからは兄弟それぞれが、できることをするという形でフォローし合い、良い介護ができたという話を聞きました」