急激な環境悪化に機能不全を起こしただけ

1980年代には、欧米が日本型経営をキャッチアップした時期がありました。当時、何人かの日本の経営者や学者が「もはや欧米に学ぶものはない」と豪語していたことが気恥ずかしく思い出されます。ところが、1990年のバブル崩壊後、リストラや負債処理で自信をなくした日本企業が、それまでと打って変わって欧米流の経営手法を導入しようとしました。その最たるものが成果主義です。しかし、それが日本の労働環境には適合しなかったことは、多くの企業における不協和音の高まりが物語っています。

しかし、営々として築き上げてきた日本型経営は破綻したのではなく、急激な経営環境の悪化によって部分的に機能不全を起こしていただけでした。やがて、日本企業は持ち前の創意工夫によって活力を取り戻し、リーマンショックで再び痛めつけられたものの、そこも乗り切ってきたのです。

その背景には、何世代にもわたって培ってきた暗黙知があったことはいうまでもありません。

それぞれの文化の性格や特徴を強く規定しているのは、それぞれの言語であることを考えると(言語は世界を分節する)、暗黙知の存在は日本語との関係が深いと言えます。

日本語は多元論的文化の中で発達してきたので、一元論的一貫性、対立の原理をはっきりさせず、「あれかこれか」ではなく「あれもこれも」主義なので、多神教的(八百万の神)な発想・視点と重なって見えます。また古文を見ればわかるように、1センテンス(1文)の中で主語が書かれていないにもかかわらず、それぞれの動詞の動作主(主語)が変わることがあることを考えると、この言語が暗黙知の存在に繋がっているのではないでしょうか。