非富裕層は「楽観バイアス」で金をドブに捨てる

「ワーストシナリオはワーストではない。むしろベストシナリオである」

これが、現実なのです。

東京オリンピックの当初の予算3010億円は、いまや1兆8000億円との報道があります。
おそらくその予測さえワーストシナリオではなかったといずれわかるでしょう。

こうした「ワーストを超えるワースト」現象が、たった1回しかない自分の人生で起こったら、どうなるか。たとえば、高齢になったときに人生計画ですでに確保しているはずの資産がわずかな額しかないことがはっきりしたら……。

心の底から後悔し、苦悩するに違いありません。若いころに軽い気持ちで浪費した5万円、10万円が今の命をつなぐ資金だったのですから。

お金のことだけではありません。人は年齢を重ねると、自分の将来の健康や病気について思いを巡らします。何歳まで健康長寿でいられるか。寝たきりになったときに誰に介護を受けるか。配偶者に先立たれたらどうするか。さらに、国が高齢化社会を支えきれず高齢者が守られない時代が到来するかもしれない。

そうした予想を超えた現実がやってくるリスクは小さくはないでしょう。

人生のあらゆるシーンで、「想定外」の事態がやってくる可能性がある。そんな「見えない不安」への備えが不十分だと、あとで確実に泣きを見ることになるのです。そのときに、ゲームを気軽にリセットするように、人生をやり直すことは残念ながら不可能なのです。

前出の学生の論文の例で言えば予想の1.6倍、カーネマンの教科書執筆の例でいえば4倍の期間が実際にはかかっています。ということは、あなたが60歳で完成していると想定している資産計画は100歳になっても達成できないものかもしれないということです。

カーネマンはこの計画錯誤を修正する方法を見つけています。

『ファスト&スロー(下)』ダニエル・カーネマン著

実はカーネマンの執筆のチームには、ほかの多くの教科書カリキュラム作りにも関与しているあるエキスパートが参加していました。そして、このエキスパートが目の前の状況を前提にして予測した「執筆完成」時期は「2年半以内」でした。

ところが、質問を変えたところ答えががらりと変わりました。

エキスパートは属しているチームとは無関係の「他の教科書執筆チームは、これまでの実績に基づけば、あとどれくらいで完成するか」と、客観的な立場で予測したところ「7年以内には完成できない」との回答になったのです。

実際は8年後だったので、正解にかなり近い予測ができたことになります。 

同じ人間が目の前の内部情報にもとづいて結果を予測した場合と、過去の類似のケース(外部情報)に基づいて結果を予測した場合とで全く違う予測を出したということです(『ファスト&スロー(下)』ダニエル・カーネマン著)。