最高水準の経常利益も売上高は上がらず

2016年版の中小企業白書によると、現在の中小企業の経常利益は過去最高水準にある。ただ、これはある意味見せかけの数値ともいえる。なぜなら売上増を伴っていないからだ。経常利益を押し上げた第一の要因は、世界的なエネルギー価格の低下による燃料費の減少。そして、もう一つが人件費の減少だ。特に二つ目の要因は、中小企業が見過ごせない問題を抱えていることを物語っている。

ご存じのとおり、中小企業の現場ではいま人手不足が深刻だ。日本商工会議所が全国の中小企業を対象に昨年実施した調査では、50.2%が「人手不足」と回答。過去最高水準の経常利益をもたらした人件費の減少には、企業が主体的に削減したというより、やむを得ずそうなったという側面があるわけだ。

また、「応募はあっても求める人材がいない」という声も多い。同じ調査で「求める人材」について尋ねた結果は、「一定のキャリアを積んだミドル人材」が67.9%で、「高校新卒」(40.4%)や「大学新卒」(32.1%)などを大きく上回った。

このように人材確保がますます難しい状況となり、企業は生き残りに必死だ。そうしたなか、業務の省力化・合理化による他社との差別化にあらためて関心が集まっている。

初期投資を抑えられサービスの拡大・縮小も容易

業務の合理化といえばITの活用が思い浮かぶ。中小企業白書で示されている、企業の直近3年間の平均売上高をIT投資の有無別で表した上のグラフを見ても、その差は一目瞭然。製造、卸売、小売、サービス、その他という全業種でIT投資「有り」が「無し」を上回っている。ただ、これだけではIT投資が業績を向上させたのか、業績が好調であるがゆえにIT投資を行ったのかは判別できない。そこで、10年度からIT投資を始めた企業と、一貫してIT投資を行っていない企業それぞれの13年度における売上高経常利益率の平均値を比較。すると、4年間でIT投資を始めた企業の方が約1%上回っていたことが分かった。

やはりいまや中小企業にとってもIT投資は不可欠。環境もそれを後押ししている。かつては高額な自社サーバーが必要とされ、その管理・運用に相当なコストがかかったが、現在はこうした負担を外部化できるクラウドサービスも数多く登場している。比較的少ない初期投資で導入できる上、状況に応じてサービスを拡大・縮小したり、必要なくなれば停止したりすることも容易だ。

ITにできることはITに任せることで、人が本来の業務に集中できるような環境をつくり出す。その実現が、費用、労力、時間などの面で以前よりも格段にやりやすくなっているのがいまの時代である。まずは、当たり前になっている日常業務の中に、無駄や非効率が潜んでいないか。あらためて自分の会社を見つめ直してみてはどうだろうか。