このような単純な文字列と単色のみで完結できる装丁は限られています。イラストを入れたり、著者の写真を入れたり、手書きの文字をタイトルに使ったり……、それぞれの個性に合わせた工夫をするのが常。ただそれは、本来の意図から遊離した過剰な演出である必要はまったくありません。あくまでその本の個性に従順であるべきだと考えます。むしろ外連味のない、その本が最初からそこにあったかのような佇まい、そして大事なのは、そこに発見があること。これが私の理想です。

過去に装丁を手がけた『金持ち父さん 貧乏父さん』にしても、裕福そうな父さんのイラストを上に置いて、貧乏そうな父さんのイラストを下に置き、上下関係を空間の中に対比させただけ。毎日何百冊と新刊が発売され、書店に並ぶ中で人の目を引くのは、シンプルで強いものなのではないでしょうか。

世論を「黒」と見立て真実の「白」で覆う

2016年1月28日に発売。発売1カ月足らずで25万部を突破。「真っ白のカバーをめくると、真っ黒の表紙が見えてきます。そこに世論の『黒』を見立て、真実の『白』でそれを覆う、というコンセプトです。メーカーの取り扱う用紙のなかで、もっとも白いものと黒いものを選びました」。

 
鈴木成一(デザイナー)
1962年、北海道生まれ。筑波大学芸術研究科修士課程中退。大学在学中から装丁の仕事を始め、92年に鈴木成一デザイン室を設立。エディトリアルデザインを主として現在に至る。手がけた本の数は1万冊以上。94年、講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。著書に『装丁を語る。』など。
(構成=矢倉比呂 撮影=佐藤新也)
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