「代替療法コーディネーター」の役割が必要

医療における選択肢が増えたとしても、患者さんが1人で自分に合った医療をみつけていくのはいばらの道です。現状では、西洋医学ではうまくいかないときに、インターネットの情報や、知っている人の口コミを頼りに民間療法や代替治療に行きつく、ということがほとんどでしょう。どこかで音叉療法をやっている人がいるとすすめられてそこへ行ってみる。やってみてどうもこれではなさそうだとなって、次にエネルギーヒーリングを試してみる。これもあまり効果がないようだといってスピリチュアルな療法を……といった具合に、もともと病気で体が弱っているところをわざわざ遠くまで行ってさんざん話を聞いて、ある程度やってみて、だめだったらまた一から始める……といったことが往々にして起きてしまっています。

そうした事態を改善するために、最初に相談する相手として、基本的な知識と適切な治療者についての情報をもった「代替療法コーディネーター」のような存在が必要だと思います。俯瞰的で客観的でフェアな視点を持った役割の人です。その人がまず相手の症状や要望、予算などから適切と思われる組み合わせのプランを考えます。たとえばヒプノセラピー(催眠療法)を主として、音楽療法とアロマセラピーを従として行い、それに西洋医学をプラスするといったプランをつくって提案する。そして本当にそれが適切なのかを継続的にフォローしながら、常に現場にフィードバックしていく。介護におけるケアマネジャーのような役割です。西洋医学も必ずメニューに入れておくことで、患者が主治医と決裂してしまうケースも防げるでしょう。

『がんが自然に治る生き方』の著者、ケリー・ターナーさんは医師ではなく、患者でもない研究者という立場で、「治癒」に至る道は患者自身が周囲の人の支援を得ながら探していくものであるということを示されました。私は治療者が主体となる「治す」ことに偏重しているいまの医療を、自然治癒力を持つ患者本人が主体となる「治る」ことに重きを置く医療と共存させていく必要があると思っています。まずはその土壌づくりとして、未来医療研究会では、多種多様な医療とその従事者のあいだの対話、交流を進めていきたいと考えています。未来の医療のあり方は、対話やコミュニケーションを通じた共生のあり方であり、多様性を持つ人や生き物が共生できる未来の社会のあり方ともつながっていると感じています。(談)

稲葉俊郎(いなば・としろう)
医師。東京大学医学部付属病院循環器内科助教。
1979年熊本県生まれ。2004年東京大学医学部医学科卒業。2014年東京大学医学系研究科内科学大学院博士課程を卒業(医学博士)。専門はカテーテル治療、先天性心疾患、心不全など。週一度の在宅医療往診も行う。東京大学医学部山岳部監督、涸沢診療所(夏季限定山岳診療所)での山岳医療も兼任。あらゆる伝統医療や補完代替医療を医療現場へと応用していくことを前提に、それぞれの技術や知識を共有するための場として未来医療研究会を暫定的に立ち上げ、活動している。その独自の医療観は、前野隆司著『無意識の整え方』(ワニ・プラス)に収録された対談のなかでも語られている。
【関連記事】
末期がんから自力で生還した人たちが実践している9つのこと
がんになることは「不幸なことだけじゃない」は本当か
余命宣告から「自然治癒」に至った事例が放置されてきた理由
「自分でがんを治した人」のネットワークに入る
「がんと一生つきあって生きる」という意味