ところで、富の創出をしないで分配だけをやった国が世界に一つだけある。インドである。植民地支配から独立してイギリスの富をそのまま引き継いで分配できていた時代は、社会主義的なネール・ガンジー主義が通用した。

しかし分配だけを約束する国民会議派の政権が長く続いたために、結局、富を創出する人がいなくなってしまった。したがって「貧困を分配」するしかなかったのである。今、日本は公的債券を発行してうつつを抜かしているが、誰がこの負債を返すのか? 先細りの人口動態を考えると、日本もかつてのインドのようなパターンに陥る可能性が高いのである。

インドで富がつくられるようになったのは、ようやくここ10年ぐらいのことだ。インドのIT産業の雄である、インフォシスの創業者で最高指導者のナラヤン・ムルティ氏が6人のエンジニアと会社を立ち上げたのは81年。アメリカのIT企業相手にソフトウエア開発のアウトソーシング事業を展開して急成長し、99年にはインドの会社として初めてNYナスダックに上場した。現在は従業員6万人の大所帯だが、彼らのような企業が先頭に立って、政府も一般の人々もようやく富を創出することに目覚めてきた。

インドは他の途上国と違って分配の発想が根強い。いまだ1日2ドル以下で生活している人が大勢いるという現実に立って、社会の底辺にいる貧困層から富を生み出そうとする、インド型資本主義「BOP」(ボトム・オブ・ザ・ピラミッド)と呼ばれるビジネスが目覚ましい成長を見せている。これがインド流「富を創出する仕掛け」なのだ。

中国の「富を創出する仕掛け」は、土地である。農民を欺いて土地を二束三文で取り上げて商業地につくり替え、付加価値が増した差益でインフラづくりが行われる。税金に依らない富の創出が可能なのは、独裁政権である共産党が土地の所有者となっているからだ。

中国の地方都市は、市長が絶対的な権力を持っている。いってみれば日本の戦国時代の武将と同じ。農民の土地を略奪して思うままにつくり替え、世界中から投資を集めて産業基盤を整備する。だからあっという間に道路が敷かれ、港湾が整備され、超高層ビルが立ち並ぶ。成都、青島、天津、広州、瀋陽、大連、重慶、厦門、ハルピン、ウルムチ……北京や上海に追いつき追い越せで目覚ましい発展を遂げている地方都市は皆、同じ仕組みで富を生み出している。土地バブルになればなるほど、収奪した農地の転用価値は上がるので、公的部門の「差益」が膨らむ。世界の経済危機などどこ吹く風だ。