仕事と仕事を新しいかたちにつなぎ直す

「スタディサプリ」はどうか。確かに世の中には、タブレットの画面を前に、誰にも強制されない環境で黙々と課題に取り組むことが苦にならない人もいる。しかし、その数は限られる。こうした意識の高い受験生だけをターゲットにしていては、市場はなかなか広がらない。

「スタディサプリ」は、この限界の克服を、高校との連携を通じて実現している。

15年に「スタディサプリ」を導入した高校は、約700校にのぼる。この動きがこれだけ広がったのは、教室の生徒個々人のレベルに合った学習の提供が可能になるからである。さらに「スタディサプリ」は、導入する高校に向けて、教員用の管理システムを用意しており、これは生徒一人ひとりの学習の進捗を踏まえた指導に役立つ。

この連携は、高校と「スタディサプリ」の双方に利点がある。「スタディサプリ」を導入した高校では、教員が自らの役割を、先ほどのチェスの指導者のようにシフトさせていく。そうすることで、教える内容の質については、教室の一斉授業では不可能な、高度な個別指導が実現する。一方「スタディサプリ」にとっては、その弱点であった受講者のモチベーションの育成がカバーされ、意識の高いトップ層から、マス層へと市場が広がる。しかも、このやり方であれば、対面型の教室を新たに各地に開設する必要もなく、大きなコストを投じずにすむ。実際、高校との連携を拡大した15年に、「スタディサプリ」の会員数が大きく伸びたのは前述の通りだ。

AIとウェブの進化は、人間の役割のシフトを迫る。このような時代だからこそ、組織と組織、あるいは仕事と仕事の関係を、新しいかたちにつなぎ直せば、事業の組み立て、そして私たちの働き方や生き方の新しいスタイルが実現する。「スタディサプリ」の躍進を振り返ることで、今の時代のこうした可能性が見えてくる。

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