なぜ靖国神社は祭りを「休止」したか

もうひとつ、パリピがきっかけで浸透したイベントの実例があります。東京・靖国神社の「みたままつり」です。これは1947年に戦没者の慰霊を目的にはじまったもので、毎年7月13~16日までの4日間、行われてきました。境内には3万を超すちょうちんが掲げられ、約200店の露店が並びます。例年約30万人の人出がありましたが、5年ほど前から若者が急増し、事件やトラブルも続出。ついに昨年、神社が露店の出店を中止し、実質的に祭りを休止することになりました。

この集客の火付け役こそがパリピだったのです。彼らはすべての開催日に参加する「全参」という言葉をつくり、SNSで「今日、みたま行く?」などと呼びかけることで、神社の祭事を自分たちのイベントに変えていきました。私も若者研究の一環として何度か行きましたが、夕方以降は約9割が高校生や大学生で埋め尽くされ、境内は身動きが取れないほどの盛況でした。

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イノベーター理論による若者トレンドの広がり方

こうしたトレンドはどのように作られていくのでしょうか。マーケティングの世界ではスタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が提唱した「イノベーター理論」がよく知られています。これは新商品の購入に対する消費者の態度を、購入が早い順に「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」の5つに分類したものです。私は早い順の4つを「フィクサー」「パリピ」「サーピー(サークルに所属する平均的な学生)」「パンピー(一般ピープルの略)」と呼びかえています。なお「ラガード」はいわゆる「消費しない若者」です。

イノベーター理論では「普及率16%の論理」がよくあわせて語られます。イノベーターとアーリーアダプターの合計である16%の先には大きな溝(キャズム)があり、そこを乗りこえられれば一気に普及していくという論理(※2)です。マーケティング用語では「キャズム超え」と言います。そのカギを握るのが、アーリーアダプターであるパリピなのです。彼らは商品やトレンドがフィクサーの内部だけの話題で留まるのか、広く市場に受け入れられるのかを決定する「フィルター=ふるい」の役割を担っています。