戦略進化4:大型店もスクラム「街を売る」

広告方式でも、公共事業方式でもない新しい方式へ。進化のきっかけは意外なところから到来した。13年暮れ、三越伊勢丹ホールディングス幹部から新宿エリアでの連携企画を持ちかけられたのだ。

「伊勢丹さんも訪日客の自然増に応える受動型でなく、積極的な戦略を打つべきだという議論が社内でわき上がったようで、新宿で実績のあったわれわれJ.I.S.に声がかかったのです」(中村氏)。

名門百貨店の伊勢丹新宿店と激安のドン・キホーテが組み、ほかに京王百貨店、マルイ、東急ハンズ、ビックカメラ、ルミネの7社12店舗が「相互送客」の理念を掲げて共同販促の実行委員会を組織。スクラムを組んで翌14年1月31日から2カ月間、「新宿ショッピング・キャンペーン2014春」を開催した。

店舗情報と訪日客向け特典を掲載した4カ国語のガイドマップを作成し、J.I.S.の提携先の海外の旅行会社と域内20のホテルに計8万部配布。期間中、通りには多言語フラッグが掲げられた。この年の旧正月のドン・キホーテの域内2店舗のインバウンド売上高は前年比400%を超えた。

(上)中国人客に人気の商品を集めた一角。農薬や防腐剤などを取るために野菜を洗う粉など、日本人にはなじみの薄い品も。(下)新宿店にある「免税館」。訪日客からニーズの高い商品をまとめているため、効率よく買い物ができる。

その後も継続を求める声が高まり、新宿観光振興協会と組んだ常設の「新宿インバウンド実行委員会」が発足。中村氏が会長職に就いた。高島屋や小田急百貨店なども参加して13社に増え、年2回発行のガイドマップ「新宿エクスプローラー」は発行部数が累計100万部を超えた。外国人が日本人に道を尋ねるときのため、地図には日本語表記もあり、旅人目線が徹底されている。