<strong>武田武士</strong>●塩竃の笹かまぼこの中でも、昔ながらの石臼づくりが「武笹」のこだわり。長兄が三代目社長を務め、三男の武士(写真)は営業と広報を担当する。 http://www.takesasa.com
武田武士●塩竃の笹かまぼこの中でも、昔ながらの石臼づくりが「武笹」のこだわり。長兄が三代目社長を務め、三男の武士(写真)は営業と広報を担当する。 http://www.takesasa.com/

三男で営業部長の武田武士(34歳)は話す。その武士は、震災の直後から避難民たちの世話、父親の葬儀などで、目まぐるしい日々を送った。

「工場の復旧に本格的に乗り出せたのは4月になってからです。被害は1億円くらい。笹かまぼこの原料は1階の貯蔵庫にあったので、すべてダメになりました」

まず床に溜まったヘドロをスコップで桶にすくい外に運び出す。これだけで3週間かかった。製造機械は1台1台分解して、隅々まで洗浄と消毒を繰り返す。

武田の笹かまぼこは「100%石臼作り」を特徴にしている。石臼を使って練ると、ミキサーを使うより、繊維や旨味が壊れず、かまぼこの味がまろやかになる。御影石でできた1台100キロの石臼が3台。1台を男5人がかりで外して、洗浄・消毒した。

真空パック機が壊れたままなのは痛いが、6月1日に復興オープンにこぎつけた。施設内には、衣料品などを無償で提供する「支援物資コーナー」も開設された。

だが、塩竈が本格的に復興し、観光客が戻るにはまだ時間がかかりそうだ。「でも」と武士は明るい表情を見せる。

「震災後には、お客さんを待つだけでなく、県内外での物産市にも積極的に参加したり、今後は通信販売にも力を入れようと思っています。何より、中尊寺が世界遺産に登録されれば、平泉へ行った足で日本三景の松島へというので、観光のお客さんも戻ってきてくれると思います」

避難所となることで地元とのつながりも再確認できた。

「お世話をした人たちが、頑張ってと声をかけてくれるんです。その声にも応えないと」

塩竈の笹かまぼこは復活に向けて、第一歩を踏み出したところである。

(文中敬称略)

(長谷川健郎=撮影)