2016年6月10日(金)

解剖学者に聞いた! 構造がわかると、ホルモンは美味しくなるのか?

dancyu 2014年8月号

文・西澤千央 教える人:尼﨑肇(日本獣医生命科学大学獣医学部 獣医学科 教授)

どうしてホルモンって食べ頃がわかりづらいの? なぜカルビと焼き方が違うの? 難解で重い扉の向こう側には、誰も知らない肉の真理があった!

――尼﨑先生は動物解剖学がご専門とのことですが、そもそもホルモンってカルビなど普通のお肉とは何が違うのでしょうか。

【先生】「ホルモン」というのは牛の大腸を指す場合と、小腸や胃を含めた内臓全般のことを言う場合があって非常にややこしいのですが……。ま、結論から言ってしまえば、後者のいわゆる“白モツ”と言われるホルモンと、カルビやロースといった普通のお肉は、細胞そのものが根本的に違います。

――細胞ですか?

【先生】普通のお肉とホルモンを超高倍率の顕微鏡で見比べるとよくわかりますけどね(笑)。どちらも「筋肉」という共通点はあっても、その組織自体は全く違うのです。普通のお肉は横紋筋という主に動物の骨格を動かす筋肉で構成されていて、筋繊維が規則正しく並んでいるから“横紋”のように見えます。一方でホルモンなどの内臓系のお肉は平滑筋と呼ばれる筋節のない筋肉のことです。

――えっと先生、難しくて全然わかりません……。

【先生】うーん、ものすごく乱暴に言えば、普通のお肉の横紋筋は、伸び縮みするスプリングが規則正しく並んでいる感じで、平滑筋は柔らかいジグソーパズルのピースがびっしり敷き詰められている状態。

――なるほど。そんなふうに構造自体が違うので、焼き方も違ってくるという話ですか?

【先生】そうです。それぞれ加熱したときの反応が全然違います。横紋筋の中にある結合組織に熱が加わると筋細胞全体が収縮します。比較的、結合組織が多いカルビを加熱しすぎると口当たりが硬く感じるのはこのため。また結合組織は多分に脂肪も含んでいるから、焼きすぎると旨い脂まで逃がしてしまいカサカサの食感になってしまうんです。

――それがホルモンだと?

【先生】ホルモンの平滑筋は横紋筋より結合組織が少ないことに加え、配列もバラバラ。熱による収縮が少なく、硬くなりにくいのが特徴です。さらにカルビに比べて組織中の脂分も少ないので、加熱によって失われるものがあまりない。だから多少強火で長く焼いても比較的味の変化が少ないと言えるでしょう。

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西澤 千央