あなたなりの兵法書をつくってみよう

横山光輝さんのマンガ『史記』でも「孫子の兵法」の章で紹介されているエピソードなので、すでに知っている方も多いかもしれない。今回、光プロダクションの許可を得て、横山光輝さんのマンガを30点以上も掲載させていただいた。おかげで本書は、とても読みやすいものにすることができた。横山光輝さんの『三国志』を読破された読者も多いだろうが、英雄・曹操は「孫子の兵法」に注釈をつけて幹部に教科書として配ったとされている。

もし、自分がどこかの部署を束ねる必要があったり、私のように決してリーダーにはなろうとせず、ウラで組織を動かそうとしてきた人間であったりしても、その人たちとの「ルールブック」「心得手帳」は必要だろう。そんなときに、自分で一から「掟」や「教科書」をつくるのは大変であるから、「孫子の兵法」や様々な古典、良書をもとに自分なりの掟をつくるのはとても有用なことではないだろうか。私が本書を執筆した理由の1つがそこにあるが、読者の皆さんもぜひ自分なりの「兵法書」づくりに挑戦してみてほしい。

現代でもよく知られている孫子の教えに「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」という言葉がある。直訳すれば、敵を知り自分を知れば100回戦っても負けない、という意味だ。ビジネスシーンに置き換えてみれば、「相手の意図を読み、事前に相手の動きを予想すれば交渉を有利に進められる」といったところだろう。

これを私たちのよく知る「じゃんけん」に置き換えてみたらどうなるだろうか。

「じゃんけんに必勝法などない」と早合点して、運任せでじゃんけんをするのは大きな間違いである。要は、相手が次にグーチョキパーの何を出すのか事前にわかればよいのである。過去の傾向を分析してもよいし、心理戦によって出す手を限定してもよい。それが戦略というものである。

例えば、グーとパーは、手を握ったり、開いたりするだけだが、チョキは複雑な形状をしていることに気づいている人はいるだろうか。2本の指を立て、残る3本を折り畳まなくてはいけない。チョキの形状は、幼児やお年寄りが瞬間的に出すのは案外難しいものだ。ということは、グーとパーの出現率が高いことになる。パーはグーに勝つから、幼児やお年寄りには、パーを出すと勝率がグッと上がることになる。

何より確実なのは、じゃんけんを後出しすることだろう。相手が打ってくる手を見てから自分の策を出す。そうすれば絶対に勝てる。

そんなことできるわけがない? いやいや、それは確実にできる。その方法論を本書で示したのだ。

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