一生忘れない思い出を

今回の日本選手権には、日本代表として、デュエット、チーム種目に出場した。試合前の公式練習では、プールサイドの井村HCから厳しい声が飛んだ。

「バラバラや! 脚、合わせなさい」

「何してんの、おぼれているじゃないの」

「もう、ぐちゃぐちゃ!」

もちろん、叱咤のあとは、技術的に的確な指示も加えるのだが。ホントに60代?と疑いたくなる。このド迫力、このパワフル指導。見ているだけで元気をいただける。

競技終了後、井村HCに、そのエネルギーはどこからくるのかそっと聞いた。

「選手が変わっていくのが、面白いんです。選手って若者じゃないですか。その若者に人生の思い出をつくらせてあげたいと思うんです。一生、忘れない思い出を」

そうなのだ。選手たちにオリンピックの醍醐味を味あわせてあげたいという熱意はずっと、変わらないのである。

「オリンピックの醍醐味って、それは、メダルをかけた、のるかそるかの大勝負ということです。もう、自分が自分でないような、こっから心臓が出るような感覚なんです」

そう言って、右こぶしを左胸から前に突き出した。言葉に熱がこもる。

「ましてオリンピックでしょ。世界の人、みんなが注目している中で、その体験ができるって、選手冥利じゃないですか。オリンピックの醍醐味を味わうって、選手冥利に尽きるんです」