大学入試をゴールにした教育はむなしい

【三宅】産学連携という方法もあるのではないでしょうか。企業がグローバル人材を欲していることは間違いないのですが、一方で教育現場には、学校は企業の下請けではないという、根強い意見もあります。この点で、今後の日本の教育、特に英語教育は何のために英語を学ぶのかを明確にすべきだと思いますが、いかがですか。

【向後】確かに経済に貢献するために英語を学ぶというのは、本来の目的からはそれると思います。ただ、学校は確かに企業の下請けじゃないんですけれども、教師や学校が外の社会に目を向けることは一層重要になります。むしろ、今までが外の世界を見なさすぎたのではないかという気持ちが正直言ってあります。

いくつものシンクタンクが、日本のGDPの落ち込みと生産年齢人口の減少を予測しています。そうした時代を迎えて、日本単独で生き残れるというのは、ちょっと考えにくいんですね。そこで、アジアを含めた世界各国と対等の立場で協働していくことが求められてくる。学校は、そこで活躍する人材を育てるという発想というか使命感を持たなければダメです。

そんな状況下で、英語が子どもたちの可能性を広げるツールであることは間違いない。ただ、英語習得そのものをターゲットにするという発想ではなく、何かを達成するために英語でコミュニケーションを広げることができれば便利だということです。ここが、これからの英語教育の大きなポイントだと思っています。

【三宅】高校教員でもいらっしゃった向後さんから、小学校・中学校・高等学校の先生たちへメッセージをいただけますでしょうか。

『対談! 日本の英語教育が変わる日』三宅義和著 プレジデント社

【向後】目の前の入試を大切にする気持ちはよくわかります。でも、それをゴールにした教育は、非常にむなしい。入試が終わった時点で、生徒たちが「よし、これでもう英語は終わり」では悲しいですよ。そうではなく、児童・生徒の5年後、10年後、20年後を見据えて、子どもたちにどうなっていてもらいたいかということ思い描いて教育に当たってほしいと思います。と同時に、そのときに、英語が日本社会においてどういう存在であるかということを、常に考えていただきたい。その意味では、先ほど申し上げましたが、常に外を見ていてほしいのです。

もう1つは、学校で英語のすべてを教え込もうとしても無理です。3年ないし6年で、英語をマスターすることを目指すのではなくて、英語を好きにさせる。つまり、モチベーションですね。教員にとって、英語を好きにさせることは、最大の任務であると私は思っています。好きにさえなれば、その後の人生のいろいろなプロセスで英語と接し、生涯、英語と関わっていく人材が育ちます。ですから、英語を好きにさせること。少なくとも嫌いにさせない。さらに、英語の学び方を指導してあげることも大事です。

その際、私は3つのキーワードがあると思っています。1つは「インタラクション」で、いつでも教員と生徒、それから生徒同士に情報や気持ちのやり取りがなされている教室環境。2つ目は、「内発的動機づけ」です。英語を学習することによって、世界が広がっていくだろうというモチベーションを与えること。そして、3つ目は「パーソナライゼーション」。与えられた教材内容をただ受動的に学習しているのではなく、自分の身の回りのことに置き換えて考えながら、英語を使っていくというような授業展開を望んでいます。

【三宅】それでは最後に、子どもたちを含む日本人の全体の英語学習者に励ましのメッセージをいただければと思うのですが。

【向後】グローバル化の時代、勉学や研究、社会に出てからのビジネスでも、英語が得意ならチャンスはどんどん広がります。さらに、より根本的なところで大切なのは、英語によって、国境を飛び越えたところで、人と人とのつながりができます。互いに学び合い、助け合うことも可能になります。

東日本大震災のときを思い出してください。海外からあれだけ援助をしてもらって、多くの日本人が英語でお礼を述べましたよね。逆に日本が海外の被災地に助けに行くときには、英語を使うことが多くなります。だから、そういった人と人との触れ合いの中でも、英語というのは必要になってくるということです。

【三宅】本日はありがとうございました。

(岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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