失敗をしても許す文化

これまで見てきたように「強いものをより強く」「事業間連携」「地産地消」「ブランド力」といったものを国内外で展開することで、三菱電機は“強い企業”に生まれ変わってきた。だが一方で、成功したときほど組織は緩みがちになる。好業績の中に隠れた懸念はないのか。

「業績がよいときには、これ以上チェンジしないでいい、このままでいいという誤解を持ってしまう。私はこれが一番危ないと思うんです。“このまま”を続けると劣化していくだけ。常にチェンジしていくことが大事なんです。あるいは、そういう気持ちがなくなることが、うちの会社のリスクではないかなと考えています」

そう語る柵山社長が今社員たちに決まって言うことがある。

それが「失敗しないことが大事なのではなく、はじめは失敗してでも最終的に成功することが大事だ」ということだ。三菱電機には、チャレンジをして失敗しても、それを許す文化がある。決して減点主義ではない。途中のプロセスで苦しんでも最後に成功すればいいという精神である。

実は、それこそ三菱電機最大の強みといえるのではないか。だからこそ、社員たちは前向きに動き、いろいろなことにチャレンジし、新しい息吹を吸収しようとする。

「少なくとも私はそんな環境の中で育てていただいた。私も若い頃、いろいろと失敗してつまずきましたが、そのときには先輩に『柵山、むこうずねのキズは武士の勲章や』と言われましてね。それが非常によかった。そういう文化のもと“Changes for the Better”いう非常にわかりやすいスローガンのもとで、強い技術をより強くすることができたのだと思っています」

三菱電機執行役社長・取締役 柵山正樹
1952年生まれ。77年東京大学大学院工学系研究科博士課程中退、三菱電機入社。2014年4月より現職。
 
(原 貴彦=撮影)
【関連記事】
死角が見当たらない三菱電機の「強さ」
なぜソニーはかつての輝きを失ってしまったのか
なぜ日本人に「iPhone」がつくれなかったか【1】
数字で「頑張ります」を表現できるか
日本家電がアジアでヒット、現地化の新潮流