「いなければいい」と思える競争相手も意外な形であなたの役に立っている。競争があるからこそ、常にハングリーでいられるだけでなく、競争相手の存在が顧客に影響を及ぼすことで、消費を活性化し、市場が広がることもあるのだ。

意外に感じるだろうが、競争相手はあなたの会社の製品・サービスの市場を成長させ、それによって売り上げを増やしてくれることがある。そのうえ競争相手の存在が顧客に影響を及ぼすことによって、より大きな売り上げをより効率的に達成できることもある。

現在、デジタル通信業者、ラモント・デジタル・システムズ(コネチカット州)の最高執行責任者(COO)を務めているリチャード・ベビルは、AT&Tの独占が解体される前のベル・システムで職業人生をスタートした。競争がない世界と熾烈な競争の世界の両方を直に経験している彼は、強力で革新的な競争相手がいるからこそ「より効率的に業務を遂行しようとするし、創意工夫して差別化を図ろうとする」と言う。「背後にライバルが迫っていなければ、利益率の高い分野に集中する必要性を感じることはない」し、その分野を見極める必要性さえ感じないだろう。また、顧客を区別してとらえることもないだろう。「自社にとって最もよい顧客とはどんな顧客か。そもそも何をもって『よい』とするのか」、競争相手がいなかったら、これらの問いはともすると発せられることさえない。

ランドール・L・トビアスもベビルと同じ考えだ。トビアスはイーライリリー(大手製薬会社)の会長兼CEOになる前は、分割が進められている最中のAT&Tの副会長だった。

「安定化時代には、ベル・システムの社員は──私自身も含めて──自分たちは最善を尽くしており、顧客の最善の利益になるよう行動していると本気で信じていた」と彼は言う。「しかし、外に出てからは、自分たちのスキルは必ずしも顧客の要求に厳密に応じるようには鍛練されていなかったこと、自分たちの技術は必ずしもあるべき水準には達していなかったこと、そして自分たちの製造工程は思っていたほど効率的ではなかったことに気づいた」。

トビアスは、自分の職業人生を振り返った近刊書『Put the Moose on the Table(誰もが問題だと思っていながら無視している問題に真正面から取り組むべきだ、の意)』の中で、そうした欠点を、競争相手の不在が一因となって生まれた「特権意識」のせいだとしている。

また、「雇用の安定が約束されていること自体が雇用の安定を損なう第一歩といえるだろう。(自分の席はまだあるだろうかと)毎日、少し恐れながら会社に行く競争の世界のほうが、結局は会社にとっても社員にとってもよい」とも言う。