“大部屋制”で発揮されたスピード判断

横田の着任と前後して、工場の仮設電源が稼働する。

4月4日に仙台入りした松沢社長が、会見で地元記者の質問に答えて、季節限定ビールの醸造を9月下旬に開始すると示唆する。この瞬間から、9月下旬からの工場の再稼働が既成事実化していく。

目標が明確になっていたのだ。その後正式発表されるが、仙台工場が最初に生産するのは「一番搾り とれたてホップ生ビール」。その年とれた岩手県遠野産ホップを使用し、2004年から毎年同工場などで醸造。11年の初仕込みは9月26日を予定している。

しかし、当初は何の確証もない目標だった。何しろインフラも整っていない。自家発電した電気は、照明やPCなどの必要最低限の機器にだけ使う。徹底した節電である。エアコンや冷蔵庫、自販機は使わず、お湯はカセットコンロで沸かす。

各建物は1階は浸水したため、すぐには使えない。11人の管理職ら幹部は、4月には2階の会議室に一堂に会していた。管理職の大部屋制である。その中心には、横田が座った。

さらに、隣の部屋には、仕込み、醸造、充填・パッケージングなど、工場現場のリーダー、係長が大部屋を形成する。同じく4月に入ってから、約50人ほどでだ。

管理職の大部屋制になったとたんに、決定のスピードは格段に速まった。のっぴきならない状況に追い込まれているからという理由だけではない。関係者がすべて集まっているから、その場で決まる。誰かが電話をしていて窮すると、別の幹部がすぐに教えてくれる。

さらには、「ちょっと待ってください、そのお話なら、若手がこんな提案をしています」と隣の大部屋から、係長が入ってくる。大部屋のやり取りは、薄い壁を隔てているだけなので筒抜けなのだ。日々刻々と変わる情報であっても、瞬時に共有化されていった。