起き上がることも困難に

そもそも、手で体を「もむ」「なでる」などの行為を、広く「マッサージ」というが、この国家資格を有し、保険適用で施術を行えるのが「あん摩マッサージ指圧師」である。

整骨院や接骨院は、同じく国家資格である「柔道整復師」が開業できるもので、急性または亜急性の骨折・脱臼・打撲などに対し、整復・固定などを行うのが業務だ。

一方、整体、カイロプラクティック、ボディケア、足つぼマッサージ、リラクセーションなどには、どれも日本では法的な資格はない。国家資格を持たない人が「○○マッサージ」の看板を掲げているのが現状で、なかにはわずか3日ほどの研修で、マッサージ師として働いている場合もあるようだ。

前出の危害事例も、無資格者による施術のものだ。とはいえ、有資格者ならすべて安心というわけでもない。国民生活センターには次のような危害事例も報告されている。

「妻が肩の痛みを治すため、整骨院で施術をうけたところ、複雑骨折した」(被害者:50代女性)

(上)首を旋回させる施術で頚椎の椎間板がはみだした状態。(下)整骨院で強くもまれて皮下内出血を起こし赤黒く腫れあがった上腕。

喜多整形外科(大阪府守口市)の喜多保文医師は、「重篤な被害が起こるのは、むしろ有資格者の整骨院だ」と言う。「ボディケアなどに気軽に行く人は、肩こりや筋肉疲労をほぐし、体を癒やしたいと考える『疲れた健康体の人』がほとんどでしょう。しかし整骨院には、すでに体がかなり悪くなっている人が、痛みやしびれに耐えかねて行くケースも多い。そこに『強く圧迫する』などの間違った施術が行われることで、非常に深刻な被害が起こるのです」(喜多医師)

現在、喜多整形外科に通うAさん(男性・52歳)は、「外傷性頚椎椎間板ヘルニア」「バレーリュー症候群」「脳脊髄液減少症」と診断されている。40代後半で首や肩のこりを感じて整骨院を訪れ、「首を急激にひねられる」「背中や膝に器具を当て強い力で打撃する」などの施術を約1カ月受けた。その後、首の痛みや手足のしびれ、頭痛などで起き上がることもできなくなってしまったのだ。

「おそらく、肩こりを感じて整骨院に行った時点で、ゆるい頚椎椎間板ヘルニアが存在したのでしょう。AさんのMRIには、その椎間板が、全部同じ方向にはみ出した形で写っていました。これは、アクション映画によく出てくる、シュワルツェネッガーのような屈強な兵士に後ろから羽交い締めにされてグッと首を捻じ曲げられる、ああいう殺人的な力が、施術によって加わったとしか考えられないのです」