300人の顧客のデータは「頭の中に」

生命保険に限らず、どのビジネスでも優秀なセールスパーソンは目先の利益を考えません。彼らが常に意識しているのは「信用第一」。英語で言えば、「レピュテーション(評判・評価)」。

「信用第一」という言葉は、使い古された商売上の慣用句ですが、時代は変われども、これに勝る真理はない。僕は常々そう思っています。

「この人は信頼が置ける」「相談に乗ってくれる」「任せられる」「嘘をつかない」……そのような信頼や信用があれば、自然と客が客を呼ぶ好循環になるのです。Aさんは顧客ひとりひとりの誕生日や結婚記念日はもちろん、顧客の家族の情報も把握し、子どもが進学した際などにはプレゼントを欠かしません。そんな「サービス精神の旺盛さ」にも器の大きさを感じます。

別の講演会で、都内の大手百貨店のカリスマ販売員Bさんにお会いしたこともあります。40代くらいの女性で、洋服を売るのが仕事。月平均の売上は数千万円だといいます。

このBさんの信条も、やはり「信用第一」。全国にいる自分自身の顧客は200~300人。その多くは、女性実業家や病院長夫人など「お金を山ほど持っている人たち」ですが、売りつけようといった姿勢は微塵もありません。

Aさんとの共通点のひとつは、舌を巻くほどの記憶力です。

Bさん曰く「すべてのお客さまのことはいつも頭の中に入っています」とのことでした。お客さまのことは、誕生日などの情報はもちろんですが、過去にその人に販売した服のデザインや色などを全部覚えているというのです。

「だから、ミラノやパリへ商品を仕入れにいく際、あのお客さまにはこのコートを、あのお客さまにはこのスカートを、と頭の中のデータと照らし合わせて購入します」

Bさんはそう断言しました。頭の中でコーディネートしているのです。

さらに驚いたのは、事前にお客さまのリクエストを聞いて仕入れるのではないということ。売れなければ、不良在庫。仕入れるのは1着数十万円もする高級ブランド品ばかり。かなりのリスクを負うことになります。思わず聞いてしましました。

「そうやって仕入れた商品を、お客さまは本当に買われるのですか?」
「90%以上の商品はご購入いただけます」

なんという「的中率」でしょう。この高率を達成できるのは、「お客さまを知り尽くしているからでしょうか」。Bさんは淡々と語りました。