会社に立証責任「賃金差の合理的理由」

では、そうした条文を作った場合にどんな法的効果があるのか。

水町教授は国民会議でこう述べている。

「同一労働同一賃金原則と異なる賃金制度をとる場合には、どうして同一労働同一賃金原則ではない賃金制度等をとっているのかという理由、考え方について会社側に説明させることによって、賃金制度の納得性・透明性を高めることになる」(議事要旨)

つまり、非正規社員に対する合理的理由のない不利益取扱いの禁止を条文に明記すれば、賃金差を設ける合理的理由を会社側が立証する責任を負うということだ。

通常なら非正規社員が正社員と給与が違うのはおかしいと裁判所に訴えた場合、非正規の側が正社員と同じ仕事内容であるのに給与が違うことを立証しなければならない。

▼企業は賠償義務を負うリスクも

だが、この場合は会社側がなぜ違うのかといった合理的な理由に基づいた格差であることの立証責任が生じ、合理的な理由を裁判所が認めなければ企業は賠償義務を負うことになる。

ヨーロッパも同じような仕組みであり、情報量も少なく、立場的に弱い労働者にとっては有利な制度であることには間違いない。

たとえばフランスにはこんな規定がある。

「期間の定めのある労働者(有期契約労働者)が受け取る報酬は、同等の職業格付けで同じ職務に就く、期間の定めのない労働者が同じ企業において受け取るであろう報酬の額を下回るものであってはならない」(労働法典)

この規定が法改正に盛り込まれるかどうかわからないが、もしそうなると裁判以外でも効力を発する可能性もある。

法学には行為規範と裁判規範がある。

行為規範とは、正社員となぜ違うのかと聞かれたときに会社側に説明責任が発生し、その場で違いについて答えられなければアウトになる。

次に裁判所に持ち込まれたときに裁判規範としての立証責任が会社側に生じる。こうした2段階による規制によって同一労働同一賃金を促していこうというのが法改正の趣旨だ。

ただし、問題となるのがどんな違いが合理的であり、合理的でないかという点だ。