よそ者が一山一家のトップを務める!?

ハワイアンズは、東京ドーム6個分の敷地に5つのテーマパークと4つの宿泊施設を併設する、東北最大の巨大温泉リゾートだ。年間140万人を集客するこの施設を運営するのが常磐興産である。同社では13年6月、11年間にわたって会社を牽引し、11年の東日本大震災のときには存続の危機から会社を蘇らせた斎藤一彦前社長(71歳・現相談役)に代わり、井上直美(65歳・元みずほ銀行常務、前みずほ情報総研社長)が新たに社長に就任した。

常磐興産代表取締役社長 井上直美氏

震災からおよそ1年後にようやく本格的に営業を再開してまもない段階での社長交代。しかも同社の70年に及ぶ長い歴史の中で、外部から経営トップを迎えたのは初めてだ。

常磐興産の前身はかつての本州最大の炭鉱、常磐炭礦である。戦後、日本のエネルギー政策が石炭から石油に転換し、閉山の危機を迎えたとき、当時の副社長、中村豊の発案で、この地に温泉とショーの大型宿泊施設を設立。炭鉱で働く人とその家族の再雇用の受け皿とした。これほどの転身ができたのも、常磐炭礦に伝わる「一山一家」という精神的支柱があったからだ。炭鉱で生活する人すべてが家族のように助け合い、支え合う精神は、常磐興産にも受け継がれている。

同社は従業員の9割がいわき市出身者であり、経営トップも地元出身者か、炭鉱関係者に限られていた。そこに「よそ者」がトップに立つことなど、誰も予想しえなかった。「どんなお堅い人がくるのか不安だ」「会社の歴史も知らない人間に、やり方を変えられては困る」といった声が社員から上がるのも無理はない。