企業に出向き、名刺交換や電話応対、話し方など、マナーの基礎をレクチャーするマナー講師。マナーのスペシャリストである彼女たちに、セミナーでは決して言えないジレンマや悩みを明かしてもらった。
≪取材に協力いただいた皆さん≫
・黒田さん……50代。マナー講師歴30年の大ベテラン。主に大手上場企業でセミナーを行う
・高橋さん……40代。マナー講師歴10年。秘書として一般企業に勤めた後、講師に転身
・東出さん……30代。マナー講師歴8年。中小・零細企業を中心にセミナーを行っている
・新井さん……30代。マナー講師歴5年。大手マナー講師事務所に所属し、日本全国を飛び回る

花嫁修業感覚? 講師の夢と現実

【黒田さん(以下、黒田)】私はマナー講師一筋30年なんですが……ここまで長く続けても、つくづく大変な仕事だなと(苦笑)。

【東出さん(以下、東出)】わかります。セミナーのときはそれなりに綺麗な格好をしているし、ビジネスマンのみなさんに「マナーを伝授する」立場だからか、どうも世間的には華やかな仕事だと思われているみたいなんですけど。

【高橋さん(以下、高橋)】全然違いますよね! リーマンショック以降、新卒を大量採用する企業が少ないせいで、仕事の数は激減しています。やっともらった仕事でも、ギャラが最盛期の半額程度だったり。私のまわりでも、ここ数年で講師を辞めてしまった知り合いが何人もいますよ。マナー講師だけで食べていける人って、今はほんの一握りなんじゃないかな。

【黒田】本を出版してたり、メディアから取材を受けたりする、「マメに露出する人」じゃないと厳しいですよね。

【新井さん(以下、新井)】私は入社した段階ですでに景気が落ち込んでいたので、マナー講師業界に「最盛期」があったことすら知らないんですが。なぜか華やかな印象があるらしい……ということは、肌で感じています。なかには、花嫁修業気分で入社してくる若い講師もいるくらい。どうしてなんでしょうか。

【東出】たぶん「マナーがきちんとしている=男ウケがいい」みたいな、単純な思考回路なんじゃないですか。お茶とかお花を習うときの「礼儀作法を身につける」感覚というか。たしかに最近、婚活とセットでマナー研修を受けさせるイベントなんかもあったりしますよね。どういう意味があるのかなと疑問に感じながらやってますけど。モテとか結婚とか、絶対にマナーがなくてもいいですよ(苦笑)。