まともな大統領候補を養成できない共和党

今回の大統領選は何を明らかにしたかといえば、アメリカ政治の混乱状況である。政党が政党らしく、次の大統領の候補者を出しえていないのである。

15年の前半、共和党の候補指名争いの最有力はジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の三男でジョージ・W・ブッシュ前大統領の弟であるジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事だった。共和党は本命視していたから、彼の選挙活動に150億円もつぎ込んだ。

しかし、「今の世界の混乱の原因はおまえのファミリーがつくり出したものだ」とトランプ氏から一喝されるなど、ブッシュ家の名声が逆効果になって支持率は低迷、2月早早に撤退を宣言してしまった。

湾岸戦争に始まり、大義なきアフガン戦争やイラク戦争で世界を巻き添えにしてきたブッシュ親子の功罪を共和党が謙虚に評価していれば、ブッシュ家から次の大統領候補を出すことなど、そもそもありえなかったはずだ。

アメリカ人は共和党のことを「GOP(Grand Old Party)」と呼ぶ。しかし、「偉大なる古き良き政党」が本来持っていたはずの人材育成機能、大統領候補に相応しい人材を自動的にスクリーニングして前に押し出していくプロセスが、もはや機能しなくなっているように見える。この8年間、オバマ政権の失政を目の当たりにしていながら、まともな大統領候補を養成できなかったのだから、共和党は終わっている。

民主党は民主党で、オバマ大統領が自らの選挙戦のときに言っていた弱者の味方であるならば、もっと早く富の偏在の問題に正面から手を打っておくべきだった。アメリカのトップ企業や富裕層のほとんどがタックスヘイブンを利用して租税回避しているから、アメリカは税収が上がらない。おかげで政府は財源不足で数年に一度、機能停止に陥っている。

アメリカが再び偉大な国を志向するなら、富を隠蔽している富裕層や金持ち企業からきちんと徴収する仕組みをつくらなければならない。これはサンダース氏の躍進という形で今回の大統領選で浮き彫りになった大きな課題である。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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