財政再建の姿勢をハッキリさせる

【塩田】軽減税率を導入した後、4年の経過措置を経て、2021年からインボイス(税額控除に必要な適用税率や税額などを明記した取引伝票)方式を採用することを決めました。

【谷垣】消費税は社会保障費などを支える重要な財源です。税制の基礎がしっかりしていないと、機能が果たせなくなるから、インボイス方式はいつかは導入しなければならない。その意味で消費税制度の一番の骨格のインフラをつくったことになるかなと思います。

【塩田】政府・与党内の調整で、谷垣幹事長と自民党税制調査会が組み、首相官邸と公明党の連合軍と対峙して、最後は押し切られた形になった、という報道もありました。

【谷垣】われわれは結局、一定のところで収めて、政治が回転していく状況をつくらなければならないので、連立の基礎はそれなりに重いものだったわけです。軽減税率制度の低所得者対策としてのあるべき姿を考えると、消費実態などを見たときにやはり公明党が主張していた加工食品も入れていくのが、消費者にもわかりやすく、また軽減税率制度の目的にも合致するのではないかと最終的に判断しました。

【塩田】菅義偉官房長官との間で激しいやり取りがあったのですか。

【谷垣】いや、そんなに激しくもないですよ。私も現実に交渉していますから、どういう問題点があるかはよくわかります。公明党の井上義久幹事長と北京に行ったとき、何日間か話をして、井上さんと私は記者会見で「両者の理解は深まった」と言ったんです。記者会見の後、両者が合意したのですが、「理解は深まったけど、溝が深いことがよくわかったね」ということで、その溝をどうやって乗り越えるのか、結構、大変だったわけです。

【塩田】軽減税率導入は2017年4月からと決めましたが、税率10%を実施するための消費税増税法には「景気条項」が入っていません。それで来春の10%への引き上げは確定的といわれていますが、景気の動向によっては、消費税増税法の改正で実施を延期する道が残っています。今回も今年の暮れに実施の是非を政治的に判断することになるのでは。

【谷垣】想定できないようなリーマン・ショック級の大変化が起こった場合は、何か考えなければなりません。経済の動きによっては、やみくもに突っ込むわけにはいかない局面もないわけではない。だけど、景気条項を取り除いたのは、財政再建に対する姿勢をはっきりさせ、通常の状況なら必ずやる必要があるとの判断に基づいているわけです。

【塩田】その点については、安倍首相も同じ考えと思っていいのでしょうか。

【谷垣】と思います。

谷垣禎一(たにがき・さだかず)
自民党幹事長・前自民党総裁
1945年3月7日生まれ(現在、71歳)。父は谷垣専一元文相。東京の麻布中、麻布高を経て、東京大学法学部に進学。79年に司法試験合格。82年に弁護士登録。翌83年、父親の死去に伴う衆議院旧京都2区補欠選挙で当選し、衆議院議員に(以後、旧京都2区と現5区で連続当選12回)。橋本龍太郎内閣で科学技術庁長官、小渕恵三内閣で国務相兼金融再生委員長、小泉純一郎内閣で国家公安委員長、財務相、福田康夫内閣で国土交通相を歴任。福田政権では自民党政調会長も務めた。一方、2005~08年に自民党で谷垣派を率い、09年に野党転落後の自民党で総裁に就任した。自民党の政権復帰後、安倍内閣で法相を務めた後、14年に自民党幹事長に。「自民党リベラル派の代表格」といわれるが、改憲容認を明言する。政界屈指の自転車愛好家で、ロードレースに参加して完走したことも。
(尾崎三朗=撮影)
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