>>内藤さんからのアドバイス

物事は最初から全部を完璧にやらなくてはいけないと思うと、気が重く感じられてなかなか手が着けられないものです。

学生時代、テストのためにシェークスピアを原文で200ページ読まなくてはならないことがありましたが、要領のいい友人を見ていると精読などせずパッパとページをめくって、重要と思った個所に線を引きながらとにかく最後まで読んでしまう。翌日と翌々日も同じことを繰り返し、最終的に3回線が引かれたところがヤマと判断してそこだけを勉強していたのです。もちろんヤマが当たるとは限りませんが、これならおっくうさが軽減されるし、最初に全体を見通すことができるので自ずと優先順位が決まっていく。仕事でも広く応用できる方法です。

たとえば講演用の資料をつくるときがそうです。私が1時間の講演で使う資料はパワーポイントで8枚程度なので、まず1枚の紙を8つ折りにして、1マスを資料1枚だと考えてみる。あとはその紙を持ち歩き、8マス全部をどうやって埋めていくかをスキマ時間に考えて、思いついたときにメモしていきます。投資の話をここに入れたいから、その次は裏付けデータを入れようといった具合に、全体を見通しながら進めていき、最後に清書すれば出来上がる。

最初から一つ一つ積み上げていこうとすると、負荷が大きすぎて挫折の原因になりかねませんが、まず全体を小さく分割し、自分にとって都合のいい部分から始めれば着手は容易になるものです。

試験のとき、問題を最初から順番に解いていくと時間切れで解けたはずの問題が手つかずになったりしますが、まず全体にサッと目を通して簡単なところから手を着ければ、限られた時間で最大の成果を挙げることができます。仕事もそれと同じといっていいでしょう。重要なポイントを先に押さえて、そこを深掘りすれば、最後には形になっていくのです。

また苦手な仕事を後回しにすると、嫌な気分を長く引きずり、ほかの仕事にまで悪影響を与えかねません。そうならないためにも、苦手意識のある仕事は細切れにして、さっさと手を着けてしまう。このように、「細分化」をうまく利用すれば、着手と効率化が無理なく進められるのではないでしょうか。

内藤 忍●マネックス・ユニバーシティ社長


1964年生まれ。東京大学卒業後、住友信託銀行入行。米国MITでMBA取得。シュローダー投信投資顧問を経て、99年マネックス証券入社。2004年マネックス・オルタナティブ・インベストメンツを設立し、05年11月より現職。資産運用に関する著書多数。
(石田純子=構成 相澤 正=撮影)