独自の発想、独自の技術にこだわる生き残り戦略

ディーゼルエンジンの燃焼にとって最も大切なことは、マツダのディーゼルエンジンもそうだが、燃料と空気が可能な限り均一に混じり合った混合気をつくり、それを自己着火させる(ガソリンエンジンと違って、ディーゼルエンジンには点火プラグがない)ことだ。これによって、原理的にNOxやPMの発生を減少させられる。ボルボは、燃料を噴射するノズルを1気筒あたり8個もつけさらにそのノズルから1回の爆発・燃焼行程で最大9回噴射することによって、混合気を可能な限り均一にして効率よく燃焼させることを狙った。注目すべきなのは、この過程で排気ガスの後処理のために最高3回までのポスト噴射が行われることだろう。効率的な燃焼と有害排気ガスの低減の両面で、この噴射装置は大きな役割を果たしているといえる。

しかも、そこで設定した圧縮比は15.8ときわめて低い。この低圧縮比は混合気の均一化に有利に働くだけでなく、従来の高圧縮比エンジンよりもエンジン構造にかかる負荷を小さくしてくれるため、シリンダーブロックのアルミ化にも貢献している。

マツダのディーゼルエンジンの場合には、従来は16が常識的な下限と考えられていた圧縮比を14にまで下げることによって、動力性能と排出ガス浄化性能の両立をめざした。これに対してボルボの場合には、15.8と可能な限り圧縮比を下げながら同時に、高性能の燃料噴射装置の開発に象徴される新たな最適燃焼の手法をとり入れ、そしてさらには少数生産という条件の下でも競争力に優れた自前のクリーンディーゼルエンジンをものにした。

同じフォードグループに属していた小さな規模の自動車企業2社が、グループ離脱を機に独自路線を歩み、ディーゼルエンジンの分野で異なる発想でそれぞれに独創的な製品の開発に成功した、というのは興味深い事実だといえる。

しかも、ボルボのディーゼルエンジンの仕上がりは非常に優秀だ。従来、消費者が抱いていた音や振動が大きいといった負のイメージを完全に払拭したといえる。実に静かでなめらかに回転する。クルマにあまり関心のない人なら、ディーゼルエンジンだとは気づかないかもしれない。むしろ、ガソリン車よりも低速域で粘り強いというディーゼルエンジン特有の動力性能のおかげで、日常の足としても非常に使いやすい。燃料消費性能もガソリン車を上回る(V40の場合は、2Lディーゼル仕様のJC08モードは20.0km/L、1.5Lガソリン仕様は同16.5km/L)ので、ユーザーはエコカーとしても胸を張れる。

こうしたクリーンディーゼルエンジン導入が功を奏し、ボルボの昨年1年間の国内登録台数は好ましい数字になっている。

輸入車の総登録台数28万4471台に対してボルボのそれは1万3510台。同社のシェアは4.75%。この中で、クリーンディーゼル乗用車の登録台数はと言えば、それぞれ、2万8834台と3489台となっている。つまりクリーンディーゼル乗用車のカテゴリーでは、ボルボのシェアは12.1%となる勘定だ。

すなわちボルボの場合、輸入車市場全体でのシェアが4.75%であるのに対して、ディーゼル乗用車だけに限ったシェアではおよそ3倍となる。しかも3489台は昨年一年間を通したものではなく、後半の8月から12月までのわずか5カ月間の数字であることを考えると、この“シェア12.1%”には、大きな意味があるといえる。

したがって、主力5モデルに一気にディーゼルエンジン仕様を設定発売した同社の戦略は成功したといえるのではないか。昨年世界販売台数50万台を達成したボルボは、2020年にその60%増の80万台をめざすという。規模の小さな企業のこうした独自の発想、独自の技術にこだわることから生まれた生き残り戦略は、ボルボにとって決して非現実的なものでないことを示している。

(注:輸入車の実績数字は日本輸入自動車組合による)

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