──最近は中小企業などの事業承継が社会問題となるなか、それと相続の関係に焦点があたることも増えているように思います。

【長谷川】それは事業というものが、まさに分けにくい側面を持っているからでしょう。昨年は、大手企業の“お家騒動”なども大きく報道されました。企業経営のさなかに相続を意識することはあまりないかもしれませんが、実際に事態に直面したとき厳しい状況に立たされるケースは少なくありません。経営者はリスクと安全策を常に検討しておくべきです。

経営者の方の話をお聞きすると、「あのときの、あの行為が……」と後悔される方がいらっしゃいます。増資や設備投資など、一つの行動が後の相続に影響することが多いのです。特に中小企業のオーナー経営者などは、一つ一つの経営判断が相続とも関係しているという意識を持つことが大切です。

目的を明確にして主体的にサービスを選ぶ

──例えば、信託や手続き代行など、相続に関係するサービスを目にする機会も増えています。活用にあたってのアドバイスはありますか。

【長谷川】先ほどもお話ししたとおり、相続やそれに関わる資産の取り扱いには専門知識が必要な部分も多いため、それをサポートするサービスも数多くあります。上手に活用するには、基本的なことですが、まず自分自身の目的をはっきりさせること。主体的にサービスを選ぶことでその価値は高まります。サービスを提供する事業者は、それぞれノウハウや知見を持っていますから、それらを自分の知識にするといった姿勢で付き合えば、得るものも大きいはずです。

──最後に、これから相続と向き合う人たちへメッセージをお願いします。

【長谷川】繰り返しになりますが、相続は関係する法律や制度も多く、複雑な分野です。また、単に資産をどう分けて、税金をどう納めるかというだけではなく、関係者それぞれの感情も絡んできます。その意味では、私たちのような弁護士、税理士といった専門家のサポートを受ける場合も、全体像を見渡したアドバイスをしてくれるかどうか、というのが見極めのポイントになるでしょう。

もちろんそうした全体感は、相続と向き合う方すべてにとって大切なもの。偏った知識が誤りを引き起こしかねないことはお話ししたとおりです。確かな情報や頼りになるパートナーを得て、“複眼的な視点”で相続をとらえてもらえればと思います。

もめないために知っておきたい! 相続がもめる理由


1 親から「してもらったこと」、親に「してあげたこと」に差がある
「マンションの頭金」「留学資金」「事業の資金」など、親の支援を受けた子と、受けなかった子がいる。一方、親を介護した子と、しなかった子がいる。いずれも、もめる原因に。

2 「分けられない財産」がある
財産が分けられないものばかりだと、代償金などで対応する場合も、その評価方法でもめることが。

3 「全員合意」ができない
遺産分割協議では相続人の全員合意が必須。一人でも納得しなければ協議は成立しない。相続人の配偶者などが口を挟んでもめることも。

長谷川裕雅著『モメない相続』(朝日新書)を参考に作成