ITで「武装」する小売、戦略すらないJA全中

【弘兼】かつて農家には「わたし、作る人」、農協には「わたし、売る人」という役割分担がありました。農家が農作物の生産に専念できるように、農協は農業資材や機械を提供し、収穫した農作物を販売ルートに乗せる仕組みです。ところが、次第にこの関係がおかしくなってしまった。

1960年に1175万人いた基幹的農業従事者は、2010年には8割減となる205万人にまで減っています。さらに現在では農協の組合員の過半数は、農業に従事していない准組合員です。農家の数は減っているのに、農協という組織は大きいままだといえます。

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JA全中を頂点とするピラミッド構造は変わる

【金丸】ビジネスの観点でとらえれば、農家と農協は、同じ「農業」に取り組むひとつのチームのはずです。本来、同じチームであれば、プロフィット(利益)、コスト(費用)、リスク(危険性)はシェアすべきです。

【弘兼】農家はリスクを負って農業に参画しているわけですね。

【金丸】そうです。しかし現在の仕組みでは、農協や全中は一切リスクを負っていません。悪天候で収穫が乏しくなれば、農家は手取りが減るわけですが、農協職員の給与は減りません。

たとえば農業全体で発生した利益が農業者も含むチームで分配されるのであれば、農協職員の給与も利益に応じて変動することとなり、農協は農家に代わって農作物を高い価格で販売できるような強い組織になる必然性が生じるはずです。

【弘兼】いまの農協は、農作物を買い取るリスクを負わず、販売の手数料収入を得るだけですから脆弱です。

【金丸】その際、農協が相対するのは、スーパーやコンビニといった流通小売業です。彼らは日々、熾烈な競争を繰り広げています。特に取り組みが進んでいるのがITを活用したデータ分析です。

80年代前半からITでの「武装」が始まっています。顧客の年代や性別、来店頻度、好まれる商品の組み合わせから価格帯まで、精緻なマーケティングを続けてきています。そうしたデータで「武装」した企業と交渉しなければいけないのです。農協が農家の利益代表であるなら、彼らを上回るような情報管理が必要です。しかしたとえば農協組織の頂点にあるJA全中は、そうしたIT戦略をまったく考えてこなかった。