2016年3月21日(月)

大岡玲さんの「人に教えたくない店」

素晴らしい料理には、その背景にこれまた素晴らしい物語があるのです

PRESIDENT 2016年1月18日号

遠藤 成=構成 大槻純一、ハリー中西=撮影
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作家
大岡玲さん

1958年、東京都生まれ。父は詩人の大岡信。東京外国語大学在学中に本格的に小説を書き始め、87年『緑なす眠りの丘を』で作家デビュー。89年、2作目の作品『黄昏のストーム・シーディング』で三島由紀夫賞、90年には『表層生活』で芥川賞をそれぞれ受賞する。美術にも造詣が深く、NHK『日曜美術館』の司会もつとめたことがある。趣味は釣り。現在、東京経済大学教授、同大学図書館長も兼任する。最新作に『たすけて、おとうさん』(平凡社)。
 

今の季節ですと、食いしん坊の楽しみは、なんといってもジビエでしょう。そこで、東西の珠玉の2店をご紹介します。両店とも日本の誇る四季と自然の恵みを味わわせてくれる名店で、シェフの優れた技術の向こうに、食材の持つ生命の息吹を感じるんです。ふたりとも自ら解体からするのですが、部位ごとにその魅力を生かして、すべて余すところなく使う。

『パッソ ア パッソ』の有馬邦明さんも、『徳山鮓』の徳山浩明さんもお話が上手でして、知識や経験も豊富ですが、話がまったく押し付けがましくなく、経験を交えてその食材の魅力を産地の自然や歴史から話してくれるので、味わうときのイメージが増すんです。

そして何よりも料理が語ります。前菜からデザートまで構成のメリハリが素晴らしい。力強く驚きに満ちているのに、舌を疲れさせない、飽きさせない。それはもう珠玉の物語です。華やかな料理も好きですが、やはりストーリーのある料理に惹かれますね。

私は14歳のとき、家にあったプロヴァンスのロゼを飲んで、なんて美味しいのだろうと身悶えして以来、食い意地が張っているというか、美味しいものを探し求めるようになって。学生時代はバイト代がはいると、美味しいと評判の店に通っていました。

ジビエは野生の獣ですから、どこで何を食べていたかで肉の味が変わります。食材としていい肉になりうるかどうか、目利きが難しいんです。森の木の実も豊作の年と、乏しい年がありますから、たくさん実がなった年のほうが美味しい。今季は、まあまあよいみたいだそうですよ。

『徳山鮓』は米原から北陸本線に乗り換えて約30分、余呉駅から車で10分。余呉湖のほとりにあります。便利がいい場所ではありませんが、ここに来なくては絶対に食べられない料理を出してくれます。とくに看板の熟(な)れ鮓はもう絶品。徳山さんは「私はなにもやっていない、乳酸菌が勝手にやってくれる」と謙遜しますが。全国からファンがやってくるので、なかなか予約が取れません。

さあ、ジビエのプレートがきましたよ。ほほう、素敵だ。ガランティーヌ、ラルド、テリーヌ……これは? 熊の脂を練り込んだパン? へえ、これは? 脂身の塩漬けの刺し身ですか。蜂蜜をつけるの? なるほどね。あっ、失礼、よだれが出てきた。

では、いただきます。

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