急性大動脈解離は高血圧を伴わないことも

急性大動脈解離を起こす人はもともと高血圧であることが多いのですが、高血圧を伴わないで発症することがあるので厄介です。それは、先天性大動脈2尖弁の人で心臓の出口から体に移行する部位にある上行大動脈に大動脈瘤がある場合です。先天性大動脈2尖弁は日本人では約80人に1人と比較的多い病気です。この病気は体質的に大動脈の壁が薄くなっていて、2尖弁のために大動脈に向く血流が加速されていることから最初に血流が接触する上行大動脈が拡大しやすいのです。この部分で45mm以上(正常は30mm以下)になると10%くらい、55mm以上になると40%くらいが突然解離を起こすこともあると報告されています。

そのために、大動脈2尖弁は自覚症状がなくても、上行大動脈が45mm以上であれば、弁置換と上行大動脈に対する人工血管置換術を考慮するべきとガイドラインで示されています。手術療法には大動脈基部といって、大動脈弁の付いている部分から心臓の栄養血管である冠動脈を再移植して人工血管で上行大動脈を取り替えるBentall(ベントール)手術、単純に大動脈弁置換術と拡張した上行大動脈を切除して再縫合する方法があります。どちらにするかは、年齢や血管の太さと部位を考慮して決定されます。経験の高い心臓外科医が手術を行えば、どの術式を選択されても長期に問題ないことが海外から報告されているので、施設と執刀医に託される病気とも言えます。

大動脈の一部がこぶのように膨らむ「大動脈瘤」は心臓の出口だけでなく、頭部への血管が分岐するために弓状にUターンして背中側に向かう弓部大動脈や背中側に移ってからの下行大動脈にも発生することが多く、この場合にはほとんどで高血圧を合併しています。特に患者さんが増えているのが、弓部大動脈の終わりから下行大動脈入り口にかけて発生する遠位弓部大動脈瘤です。

ここの大動脈瘤では血管が膨らんでくると声帯を調節する反回神経という神経を圧迫するために、風邪を引いたわけでもないのに声がかすれる「嗄声(させい)」という症状や水分を飲み込む際に声帯が十分に閉じきらないので、気管に入ってしまう誤嚥によるむせ込みなどをの自覚症状が出ることがあります。こういった症状を自覚したら赤信号です。必ずCT検査を行って治療方針を決定する必要があります。標準治療は、人工心肺を使用して20~25℃までの低体温にして行う手術です。ただし、最近ではこの部位に対する血管内治療(ステントグラフト治療)が発達してきたので、高齢者には負担の大きな治療を回避できる可能性が出てきました。