2016年3月25日(金)

追うのはひたすら「生・天然」。マグロ買いの名手、ジャンボさん

築地、旬ばなし

dancyu 2014年5月号

文・福地享子 撮影・平野太呂

築地市場のマグロ仲卸の数は200軒以上。そのなかで「西誠(にしせい)」は、あつかうのが生の天然マグロのみ、というきわめて特異な存在。冷凍にも養殖にも手を出さず、追うのはひたすら「生・天然」。資源の減少や漁の規制が続く今の時代、もはや奇跡に近い店、といっていい。

「西誠」オールメンバー。後方のジャンボなお二人が小川さん親子。右手前の小笠原さんと後ろの青年勝巳さんも親子。修業中の中北クンも交え、絆もガッチリ。

こういう一途な店って、求道的っていうか、尖った空気感とかあるものだけど、「西誠」にはそれがない。社長の小川文博さんは、名門マグロ屋のぼんぼんそのもので、店を覗けばスタッフの賄いをつくっていたりする。最近は、息子の和宏さんも入社、なにやらほのぼの家庭の匂いすら漂う。

だけど私がよそで聞く小川さんの噂は「マグロ買いの名手」。店での毎日とギャップがあって、不思議でならない。

そんな不思議を、番頭格の小笠原道信さんが解いてくれた。小川さんが20代そこそこでセリ場に出たころから40年近くも苦楽を共にしてきた方だ。

「社長はひとりヤリが多いからなあ」と。

ひとりヤリとは、セリで、だれも値をつけない(ヤリを出さない)なか、ひとりだけ値をつけること。

「マグロのいい、悪いは、しばらく経験すりゃわかる。ところが社長は、そのあいだの微妙なとこ、いいんだか悪いんだか怖くてヤリが出せないやつ、その見きわめがウマイ。天性のもんだな、あれは」と小笠原さん、目を細めるのだった。

そういえば、小川さんが冗談めかして言ったことがある。

「マグロ屋は博打はしない。毎朝、セリ場でやってるから」。

あれ、本音だったのかも。ひとりヤリ、すなわち、のるかそるかの大博打だもん。

河岸の年寄り連からは、そのりっぱなガタイゆえジャンボ、と呼ばれている小川さん。さながらミニジャンボの息子は、とうさんのマグロDNAをどう受け継いでいくのだろう。

福地享子
ふくち・きょうこ●築地市場の文化団体「銀鱗会」役員。市場から川風に吹かれながら隅田川に沿って佃へ。お手軽にして満足度高しの花見コースを、今年も歩こうぞ。
この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。