移民を公然と拒絶するトランプ米大統領候補(写真左)と、昨年末に起きた難民による女性への集団暴行・強盗に抗議する独右翼団体(同右)。写真=Getty Images

パリの事件を起こした犯人の多くは、フランスやベルギーに住むモロッコ系・アルジェリア系の移民だったとされる。彼らのようにアフリカや中東から欧州に移住した人々は、人種や宗教の違いから、数世代にわたって社会的に差別されてきた。そうした人々の憤懣が、ISの巧みな扇動によってテロという形で噴出したと思われる。

さらに恐ろしいのは、ISとの直接的な繋がりがないのに、自分が育った欧州・米国内でテロを行う者、いわゆる「ローンウルフ型」のテロリストが生まれていることだ。

米ロサンゼルス近郊の福祉施設でイスラム教徒の米国人が銃を乱射し、14人が死亡。ロンドンの地下鉄の駅でも、「これはシリアのためだ」と叫びながら男がナイフで乗客を切りつけるという事件が起きた。

前述のタジフェルの実験結果のように、物理・金銭的に直接繋がりがなくとも、「ISの一員として聖戦に参加するのだ」と考えた時点で、その人は自己認識上、ISという集団の一員になってしまうのである。

インターネットの普及により、国境を越えた情報の伝播が飛躍的に容易になったことで、集団を形成するうえでの地理的制約の意味は薄れた。

ただ、この新たなステージにおいても、集団への帰属意識を持たせ、他の集団を攻撃させるうえで、宗教は極めて効果的な手段であり続けている。「人の力を超えた全体的な存在の下にある」という意識が、人を1つの集団にし、殺人へのためらいも、死の恐怖も超えさせる。

ナショナリズムもそうした宗教と同種の怖さを抱えている。東京・靖国神社のトイレを爆発したとして逮捕された韓国人容疑者は、過去に犯罪歴もなく、韓国内の過激な政治団体の所属歴も確認されていないという。在日外国人への“ヘイトスピーチ”のような行為を放置すれば、IS同様に国内でテロリストが跋扈する導火線となりかねない。