「飽きていないふり」をする

【みうら】アスリートって、どうしてそこまでして戦うんですか?

【為末】最終的には自分の好奇心ですよね。この身体がどのくらい速く動けるのかどうかを見てみたいっていうのはありますね。

【みうら】僕も好奇心でやっていることは多いんですけど、飽きるじゃないですか。普通の人がひとつのことをやり続けるとしても、長くて3年だと思うんですよ。やり続けるためにはどこかで「飽きていないふり」をしなきゃならない時期がある。たぶん為末さんにもありますよね?

『ない仕事の作り方』(文藝春秋刊)

【為末】僕がやってた陸上競技の場合、普通にやっていると淡々としたことの繰り返しなので、角度を変えたり、自分から揺さぶりにいったりしてましたね、飽きてくると。

【みうら】わざと自分を困らせる、みたいな。

【為末】そうですね。たとえばどんな状況下でもハードルに脚を合わせられるようにするための練習があるんですが、自分でハードルをセットすると頭でシミュレーションして跳べるようになってしまうんですね。それで、離れたところでウォーミングアップしているあいだに後輩にセットしてもらう。するととっさにどちらの脚で跳ぶかわからなくなるんですよ。

【みうら】飽きないための工夫ですよね。

【為末】あと、ある程度やっていくとタイムがほとんど変わらなくなっちゃうというのもあるんですよ。僕は11年くらい同じタイムだったんですけど、そこだけ見てると超退屈なんです。何も変わってないので。だから常に新しい何かを取り入れて自分を飽きさせないようにしてましたね。

【みうら】僕のやっていることも同じです。どんなことにも確実に飽きます。いかに「飽きないふり」をするかかが僕の仕事なんですよね。「また」だと飽きられてしまうので、「まだ」と濁点がつくところまでやる訓練をね。「またやってる」を通り越して「まだやってる」って言われることが最終的にプロの称号ですね。

【為末】ふりをする、ってことですよね。