ヒロシへ。

今日はおまえの医院に関するよくない噂を同業者から聞きました。医療費請求の際に保険点数を水増ししていないというのは本当ですか? そういったことを独りよがりの正義感でしてはいけませんよ。【A】医院の経営も立ち行かなくなるし、何より歯科医業界が困ってしまうのです。仲間から陰口を叩かれてお父さんだって大迷惑です。

最近は【B】カルテ開示請求≫などしてくる困った患者が急増していてビビっているのかもしれないね。だけど考えてもみなさい。してもいない治療をしたかのように請求したとしても、患者にとっては3割負担でしょう。実際数百円程度のことで怒る人なんてお父さんが知る限りあんまりいませんよ。

治療内容の明細を見られると、必要もない治療や、やってもいない治療で医療費を請求していたことが一目瞭然です。大切なのは患者に「おかしいな?」と思わせないことです。いいですか。歯科医ごとに値段が違うと疑いを持たれてみんなが迷惑をするのです。ヒロシももう立派な大人です。自分一人のことではなく、みんなのことを考えて行動すべき年齢なのではないですか?

……少し厳しいことを言いすぎましたね。でも、これもすべてヒロシのためを思って言っているのです。ところで、ヒロシの医院の受付ですが、どうしてそこら辺のアルバイトを雇っているのですか? 確か、金と職に困っていて助けたかったから、と言っていたように思いますが、歯科医院の受付はとても大切なポジションです。それはヒロシの優しさなのかもしれませんが、もっと有能な人材を配置するべきだとお父さんは思います。

ベストな人材は町内会事情に詳しい噂好きのオバさんです。患者の顔を見るだけで、どれだけ金を払えるか、あとで訴えてくるような面倒な人かどうか、一目でわかるからです。≪【C】患者の身なりや職業で年収を判断≫し、金のある患者を巧みに保険外診療に誘導して金を稼ぐのは当然の商売ですが、町内会事情に詳しいオバさんはその一助となるでしょう。また、患者のプライバシーもオバさんは高いレベルで押さえています。「この患者は最近浮気相手ができた」などこっそり教えてくれますから、そこで「歯をキレイにするためホワイトニングを……」「女性への印象がグッとよくなりますよ」と持ちかければ患者もホイホイと乗ってくるでしょう。

受付に最適なのはオバさんですが、いかんせんオバさんは手強いので、しばしば賃上げ交渉をしてきてウザイ面があるのも事実です。それに、ヒロシもそろそろ結婚を考えていい年頃ですよね? 受付に若くてキレイな女性を採用するのも一つの選択肢です。お父さんも、そうやってお母さんをゲットしたんですよ。ともかく、今のアルバイトは採用するメリットがありませんから、オバさんかキレイなねえちゃんか、どちらかに選び直すべきです。

▼解説
【A】医院の経営も立ち行かなくなる
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【A】過激な競争で経営が困難に
【B】カルテ開示請求
個人情報保護法により患者本人からのカルテ請求に対し、一部の医療機関はカルテ開示が義務化されることとなった。請求に理由は問われず、手数料もコピー代程度で済む(拒否されたら、保険請求明細書の発行を請求するとよい)。医者側の不正行為を牽制する目的で請求するのもアリだが、純粋に自分の病状や治療状態を確認し、理解を深めるという意味もある。なお、レントゲン写真も開示対象だ。これは見る者が見ると「どういう状況で、どういう治療をしたか」、一目瞭然となるため、知識不足、能力不足の医者たちは非常に恐れているという。
【C】患者の身なりや職業で年収を判断
患者の住所からグーグルアースで家構えを確認し、年収を推し量るといった高度なテクニックもあるようだ。