【茂木】山極さんは、人間の恋愛は両者の関係を一気に対等にするとおっしゃっていますよね。たとえば、どれだけ地位が高い男性でも恋愛関係になると女性と対等になる。

【山極】むしろ女性のほうが支配してしまうかもしれませんけどね。三角関係というのはありますが、恋愛のベースにあるのは1対1。

(左)霊長類学者・人類学者、京都大学総長 山極寿一氏(右)脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー 茂木健一郎氏

【茂木】恋愛ということでは、日本人女性と結婚したがる外国人が多いそうですね。日本の女性はヨーロッパと比較すると社会的地位が低いとか遅れているというふうに見られていると思っていて、私はそこが意外なのですが。

【山極】日本人は女性に限らずユニークな気配りと抑制の感覚を持っているのが理由かもしれません。たとえばヨーロッパ人だと、食事をしているときに召使いがすぐ横に立っているとしても、まったく声もかけないし、意識もしません。日本人だと自分たちだけが豪勢な料理を食べていて、周りに食事をしていない人がいると落ち着かないし、気まずくなる。すぐに周りに目がいくのです。そういう民族性を持ちながら、演劇なんかでは黒子が存在している。

【茂木】歌舞伎や文楽ですね。

【山極】そこにいるのは誰の目にも明らかなのに、存在しないもののように扱うこともできるのです。欧米の女性と比べたときに、その使い分けができる日本人女性が魅力的にうつるのかもしれません。

【茂木】本当は男より強いのだけど、それを抑制することもできるという。

【山極】日本人は周りに目がいく性質をうまく利用するやり方を知っているのですよ。私がまだ学生の頃ですからだいぶ昔になりますが、近衛ロンドという集まりが京都大学で開催されていました。異分野の人たちが学生も含めて集まって、学際的な話をしていました。お互いをやっつけあうのではなくて、「それ、おもろいやん」「その発想、いけるで」みたいにわいわいやっていた。京都大学はよその教授が「なんだそれは」と思うような発想をしてきたけど、実は男は1対1でアホな話をするのは苦手であったりする。近衛ロンドの場合は、あまり発言はしないけど話を聞いている参加者や、観客の立場の人もいた。背景に人がいることで話がしやすくなるという状況を日本人は活用してきたのです。だから逆に日本人は1対1のディベートは弱い。