「科学」に基づいて治療を優先すべき

日本は違法薬物の「取り締まり」に関しては世界一の水準です。厚生労働省のまとめによると、違法薬物の生涯経験率では、アメリカは大麻が41.9%、覚醒剤が5.1%、イギリスは大麻が30.2%、覚醒剤が11.9%なのに対して、日本は大麻が1.2%、覚醒剤が0.4%と非常に低い水準です(※1)

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覚醒剤事犯の検挙者と再犯率の推移

しかしその一方で、治療・復帰・支援の取り組みは遅れています。かつて「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」というCMが放送されていましたが、そうしたイメージがつくられた結果、薬物依存に陥った人は社会復帰ができず、刑務所の出入りを繰り返す「回転ドア現象」が起きているのです。警察庁によると、2014年の覚醒剤事犯の検挙者は1万958人で、そのうち64.5%が再犯者でした。10年前の再犯率は55.2%で、比率はどんどん高まっています。

刑務所のなかでは薬物は手に入りません。覚醒剤であれば禁断症状も軽いので、すっきりやめることができる。収監中に問われても、心の底から「もうやりません」と話します。でも再犯者の多くは出所直後に逮捕されています。出所しても依存症は治っていないので、薬物が手に入る状況では我慢ができないのです。

アメリカでは1989年に「ドラッグ・コート(薬物裁判所)」という制度が始まりました。これは刑事罰とは別に、1年から3年を司法の監督下で生活し、専門機関への通院で治療を受ける仕組みです。本人の治療や回復を、司法の力で強制するわけです。発祥地であるフロリダ州マイアミの場合、ドラッグ・コート修了者の再犯率は年平均で6%と大きな成果が出ています。刑務所の定員には限りがありますし、収監には多額の税金もかかります。背景にあるのは、依存症を治療しないまま、再犯が繰り返されることは、社会的な損失であるという考え方です。