2012年1月16日(月)

不景気関係なし。「ヒット商品」が出ない理由

大前研一の日本のカラクリ

PRESIDENT 2011年7月4日号

著者
大前 研一 おおまえ・けんいち
ビジネス・ブレークスルー大学学長

大前 研一

1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾

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ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長 大前研一/小川 剛=構成 PANA=写真
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なぜ、今の若い世代は物欲がなくなったのか

「シェアリング(共有)」のライフスタイルが浸透してきている。車を共有して使うカーシェアリングがカーライフの一形態として定着し、電化製品やベビー用品などを買わずにレンタルで済ます家庭も増えている。一つの家を複数の単身者が共有して暮らすシェアハウスが人気を呼び、モノばかりでなく、仕事を分け合うワークシェアリングも社会的なテーマになっている。

もともと江戸時代まで農村を中心とした日本のコミュニティでは相互扶助、沖縄の方言でいえば「ゆいまーる:結い回る(助け合い)」の基本はシェアリングだった。しかし近代以降、特に戦後の高度成長期を経て日本人はアメリカ型の大量生産・大量消費社会の豊かさを享受してきた。テレビや電話が一家に一台だった時代から、今やテレビも携帯電話もパソコンも一人一台の時代になり、「個の時代」も行き着くところまで行き着いた観がある。

私が子供の頃は、1個の卵を家族5人で分け合って食べた。180ccの牛乳を兄弟3人で分け合って飲んだものだ。日本の1人当たりGDPが300ドルだった終戦直後の貧しい時代である。卵1個、牛乳1本、1人で丸々いただけるなんて我々世代には夢のような話だった。電話も向こう3軒両隣で1台、「呼び出しですよー」という隣家の声も懐かしく響く。

モノが溢れかえっている時代に育った今の若い世代に物欲がないのは当たり前で、草食系だ何だと称しているが、要は環境に適応してしまったのである。貧しさや飢えを経験している我々世代は競い合ってモノを欲しがってきたが、今の若い世代は「モノは必要なときに使えばいいじゃん」と考える。シェアリングのほうが合理的なのだ。

だから彼らには持ち家信仰はまったくない。今から20年前の1990年頃に30~35歳だった都市部のサラリーマンの平均的な通勤時間は1時間20分という統計があるが、今どきの若い世代には“ありえない”数字。1日3時間も通勤にかけてまで何で郊外に家を持つのか、彼らには理解できないし、そこまでして行きたい会社などないに違いない。

実際、今の日本の空家率は全国平均で13%、山梨県は20%を超えている。気が付いてみれば都心に近いエリアにも空家はたくさんあって、そういう物件を買って新品と見紛うようなリフォームをしても1000万円かからないケースはざらにある。一生かけても払いきれない住宅ローンを抱え、長距離通勤で寿命をすり減らしてまで一国一城の主になることに価値を見出さなくなるのは当然だろう。

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