未来の成長をもたらす立地先をどう選ぶか

2016年2月20日(土)

未来の成長をもたらす立地先をどう選ぶか

PRESIDENT 2016年3月14日号

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回復基調にある日本の景気。投資意欲も上向きつつある。多くの国内企業がグローバル競争のなかで、厳しさを増す環境に力強く立ち向かっていることの表れだ。企業の優位性や競争力は、拠点を立地した地域がもつさまざまな資源や自治体の対応にも影響される。つまり、企業の強みの源泉は、立地地域にもあるのだ。「地方創生」「国内回帰」などの言葉が盛んに登場する今日、自社に未来の成長をもたらす立地先の選び方とは──。

最適な立地先の見極めはビジネスパートナーを選ぶ目で

立地先を求める企業。それを誘致する自治体。どちらも成果を目指す思いは同じはず。だからこそ企業は、立地先をビジネスパートナーととらえ、ベストマッチの相手を選ぶべきである。みずほ総合研究所の調査本部政策調査部で主任研究員を務める上村未緒さんが、企業と地域、互いの成功に向けてアドバイスを送る──。

上村未緒●うえむら・みお
みずほ総合研究所株式会社
調査本部 政策調査部
主任研究員

1981年生まれ。2006年入社。07年より在アメリカ合衆国日本国大使館出向、11年より経済産業省出向などを経て現職。専門は産業政策、地域経済。地域の自立的発展につながる戦略型企業誘致として、特に地場産業と連携した誘致を提唱。

 

まち・ひと・しごと創生には外からの企業誘致も重要

2040年には人口が対10年比で2000万人余り減少し、1億727万人程度まで落ち込むと予測される日本。政府は14年12月に「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」を発表し、60年時点で1億人程度の人口を保つために今後目指すべき将来の方向を提示した。あわせて政府は、このビジョンを実現するため、今後5カ年の目標や施策の基本的な方向を示す「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をとりまとめている。

さらに、自治体(都道府県市区町村)に対しても「地方人口ビジョン」と今後5年間の施策を集めた「地方版総合戦略」を、15年度末(本年3月末)までに策定するよう求めた。

15年10月には、「地方版総合戦略」のうち709事業を、他地域の参考となる先駆的な優良施策として交付金の対象に決定。人材育成、地域産業、まちづくりなど5つの分野別に、特徴的な計50事例を公表した。

──各自治体からの「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」に見られる傾向や共通点などとともに、上村さんの感想、評価をお聞かせください。

【上村】どの自治体も「2060年に人口1億人程度を維持」という国の方針に沿っていて、「地方人口ビジョン」で長期的には人口流出に歯止めがかかる未来像を描き、その実現への施策体系を「地方版総合戦略」で示していることは共通しています。

人口流出の食い止め策としてカギを握るのは「しごと」、つまり雇用の創出です。これを各自治体とも重要視し、地域内の資源を有効活用する前提で、官民協働を基本に事業を構想しています。

しかし5カ年計画であるうえ、今後もPDCAサイクルのなかで事業内容に磨きをかけていくこととされているため、現時点で雇用創出の実効性まで評価するのは難しいと思います。ただ一つ、いまや民間企業の多くは四半期ごとに経営施策を見直す時代ですから、自治体によるPDCAにも同じようなスピード感を望みたいところです。

また、雇用創出策の代表といえば企業誘致です。過去に失敗例があることは否めませんが、それでも地域外の企業に目を向けないのはもったいない。私はそう思います。地域内の資源を使うことは、もちろん大切。しかし地域の経済構造や産業育成を考えて、自分たちだけでできないことは、外の企業の力を得て一緒に成長を目指すべき。その地道な取り組みが実を結び、雇用も生まれ拡大していくのではないでしょうか。

政府が先駆的で優良とした「地方版総合戦略」のなかにも、確かに企業誘致という手段を含む事例が見られないわけでなく、私は企業誘致も非常に重要な施策だと考えます。

主体的で自立した自治体は「戦略型企業誘致」を実践

上村さんが指摘した企業誘致については、政府も第二次世界大戦後から現在に至るまで、産業立地政策を展開し自治体のバックアップを続けている。

1950年代までの戦後復興期には、海上輸送に有利な臨海部への工場集積を推進。四大工業地帯(京浜、中京、阪神、北九州)が形成された。

60年代からは工場の地方分散を促す政策へシフト。70年代までは高度経済成長の波にも乗り、一定の分散効果につながった。以後、国土の均一的な発展を目指すという基本的な方向性は今日の政策にも引き継がれている。

80年代に入ってハイテク産業の分散を目指し、ハコモノの造成を中心に据えた政策では、地方の中核都市への企業立地が進んだ。一方、山間地域など都市部からの遠隔地では、市場・人材・物流インフラなどの条件が整わないところもあり、結果としてハイテク産業の地理的な分散の広がりは政府の思惑に及ばなかった。

バブルが崩壊した90年代は、グローバル化の進展などに伴い生産拠点の海外移転も急速に進んだ。政策は空洞化防止を目指したが、財政難もあり、98年策定の「第5次全国総合開発計画」で、政府は方針を「地方への機能分散の推進」から「地域の産業再生や自立の促進」へ転換。産業立地政策は、大きなターニングポイントを迎えた。

2000年代の政策は、いっそう地域の自立を促すものになった。07年からの「企業立地促進法」でも、国の支援を求める自治体は、まず自身で地域産業の活性化を目指す「基本計画」を策定することとされている。