移動を楽しむスタイルを提案したい

健常者にとっては何でもないたった100メートルの外出を現状の車椅子では断念しなければならない人がいる。それならば、ちょっとした外出でも楽に使える車椅子を開発しようと内藤たちは決めた。

車椅子ユーザからさらに聞き取り調査をして、現状の課題を解決するだけでなく、誰もが乗りたくなるようなデザインを考慮し、1年半かけてプロトタイプを完成させた。月6万円のアパートの一室を借り、メンバーが代わる代わる退社後や土日にやって来ては開発を続けたという。開発資金の大半をサニー・サイド・ガレージのメンバーが出し合った。

2011年の東京モーターショーに出品すると、予想以上の反響を得た。

「これならば製品化できるのではないか。車椅子ユーザのためにも開発した方がいいと、独立して会社を設立することにしました。ソニーに何の不満もないし、将来の不安もゼロではありませんでしたが、やるべきだと思ったのです」

2012年、内藤や福岡は会社を辞め、杉江と合流して、WHILLを設立した。サニー・サイド・ガレージからは後にさらに2人が参加することになった。だが、それからの改良が大変だった。試作品を実際にユーザに使ってもらって意見をもらい改良を繰り返す。オムニホイールの仕組みは試作2台目から取り入れた。

「3カ月ごとに新たに試作を出し続け、その度にもうダメかなと思いました。特に3台目のときは試乗テストで全くユーザに評価してもらえず、あきらめかけましたが、仲間と一緒に頑張り、少しずつ課題を解決し、設計もだんだんとシンプルになっていきました」

こうして6台目が商用第1号となり、2014年9月、発売にこぎ着けた。これだけ短期間で試作を繰り返すことができたのは、浜野製作所など日本の優れた中小企業の技術があったからだ。特に精密なレーザー溶接は浜野製作所がなければできなかった。

「お願いすると2~3週間で寸法精度も完璧な部品が上がって来るのです。海外であればできなかったでしょう。WHILLは日本の中小企業の力の結集でもあります」

健常者向けの乗り物にもなるのではないかと水を向けると内藤はこう言いきった。

「我々は立ち乗り2輪車のセグウェイのような乗り物は作りません。移動に困っている人を気持ちよく移動させる乗り物にこだわりたいと思います。メガネでも機能だけでなく、ファッショナブルな製品が生まれたように、我々も移動を楽しむスタイルを提案したいと思っています」

WHILLの進化に注目したい。

(文中敬称略)

株式会社WHILL
●代表者:杉江理(さとし)
●創業:2012年
●業種:パーソナルモビリティの生産・販売
●従業員:30名
●年商:非公開
●本社:神奈川県横浜市
●ホームページ:http://whill.jp/
( WHILL=写真提供)
【関連記事】
誰もが乗りたくなる! 便利でスマートな電動車いす「WHILL」
「機能+美しさ」を両立!陸上用義足 Rabbit Ver.4.0
生活空間に馴染む、本棚に置ける防災キット「THE SECOND AID」
着るだけで疲労回復する「リカバリーウェア」の効果
日本発、世界標準デザイン!「非常口サイン」