電動車椅子に変革をもたらしたのは、3人の若き共同創業者たちだった。いずれも大手メーカーから独立し、乗ることが楽しくなるかつてない電動車椅子を創り出した。パーソナルモビリティ「WHILL(ウィル)」と名付けられた製品を生み出した創業者のひとり、内藤淳平氏に聞いた。

小回りも利き、段差も乗り越えられる

WHILLの共同創業者であり、最高開発責任者の内藤淳平氏。

歩くことが困難でありながらも、車椅子だけには乗りたくないという人たちがいる。見た目が悪い、ちょっとした段差も乗り越えられない。砂利道のような悪路はうまく進まない。小回りが利かない。そうかと言って、外に出る度に誰かに付き添ってもらうのも心苦しい。

そんな人たちにとって、「WHILL(ウィル)」は待ちに待った電動車椅子だろう。その形状は次世代の乗り物に見えるほど格好いい。

開発したのは、製品と同じ社名のWHILLである。同社ではこれを「パーソナルモビリティ」と呼んでいる。まるでマウスを操るような感覚で前後左右と自在に操作できる。小回りも利くし、7.5センチまでの段差は乗り越えられ、砂利道や芝生、でこぼこ道などの悪路も走ることができる。まさに乗っているのが楽しくなる。

こうした性能を実現したのが、「オムニホイール」という特別な前輪だ。独自開発したオムニホイールは、次ページの写真のように24個の小さなタイヤが進行方向とは垂直にリング状に並べられた構造になっている。メインタイヤと24個のサブタイヤがそれぞれ前後と左右の2軸で回転することで、狭い場所でも回転半径70センチで方向転換でき、4輪駆動なので段差を乗り越えたり、悪路を走るトルクも出る。

WHILLの共同創業者であり、開発した日本法人代表・最高開発責任者の内藤淳平(32歳)はこう語る。

「従来の車椅子には抵抗があったとおっしゃる方々に買って頂いています。実際、日本ではWHILLユーザの半分くらいがそれまで車椅子を使っていなかったみなさんです。あるご婦人は足が悪くて、ひとりではマンション1階の郵便受けまで新聞を取りに行くことができませんでしたが、WHILLによって可能となり、動ける自信になったとおっしゃっていました。もともとWHILL開発のきっかけが『100メートル先のコンビニに行くのをあきらめる』という車椅子ユーザの方の言葉でしたので、わずかな距離でも自分で動ける自信になるという声を聞くのはうれしいですね」

WHILLは1回の充電で走行距離が20キロ。近所に出かけるなら、何の心配もない。価格は99万5000円である。

小回りが利く上、座面が電動でスライドするので、家の中でも便利に使える。座面をテーブルに近づければ食事もしやすくなり、ベッドへの移動も楽になる。洗面台に向かって自分で歯磨きができるようになったと喜ぶユーザもいたという。