自分が歩んだ「王道」に対する違和感

田中裕子さん(仮名)はサピックスから桜蔭に入学し、6年間鉄緑会に通い、東大文Iに合格した。文系の「王道」を歩んだ。しかし、社会人になってそれなりの経験を積んできた今、裕子さんは「王道」への疑問を感じつつあるという。

「今、私は、中央省庁に勤めています。いわゆる日本のエリートと呼ばれるような人たちに囲まれて仕事をしています。彼らのエリート意識みたいなものがやっぱり鼻につく。やたらと自分の経歴を話題にしたがるんです」

そういう自身も相当の経歴の持ち主だ。実は弁護士資格も持っている。自らが進んできた道に違和感を覚えるようになったきっかけは何か。

「実は私もかつては彼らと同質だったのだと思います。しかし、弁護士資格を得るための司法修習で沖縄に赴き、1年間過ごしたとき、自分自身がすごく楽になるのを感じたんです。それまでの私にはなんというか、自分で勝手に決めた既定路線みたいなものがあって、それに縛られていたんだと思うんです」

「本当は民事や刑事の裁判を引き受ける『町の弁護士』として働きたいと思っているのに、東大の法学部の雰囲気に流されて、『企業法務に興味があります』なんて言うものだから、嘘はすぐにバレます。就職活動で大きな挫折を味わいました。25歳まで、自分は結局何も考えてこなかったんだなあと思いました」

就職活動での挫折で、ふっきれた。既定路線を離脱して、独自路線を行こうと決めた。それで司法修習の地に沖縄を選んだ。いわゆる「エリート」が選ばない道である。しかしそこでいっしょになった人たちの生き方を見て、目からウロコが落ちた。初めて「回り道」をしてみて、視野が開けた。